◆刀剣・刀さにNL小説◆

□【長谷部】月下美人
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 自らの浅ましい欲望を留めることができなかった審神者はついに、長谷部と自分たちの周囲に群がる幾人もの見物客の男たちを愉しませるために、自ら腰を揺らし始める。

 裸の身体を隠そうともせず、むしろ秘すべき場所の全てを周囲の人々に鑑賞されることを望むように、大胆に腰を振り豊かな乳房を揺らしながら喘ぐ彼女は、まさに熟練の娼妓のようだった。

 衆目の中で愛欲の行為に溺れる彼女を取り巻いて、彼女の痴態を眺めていた観客たちは、次第にそれぞれの反応を示し始めた。

 ある者は唾を呑み込み恍惚の笑みを浮かべ腰を振る彼女の浅ましい姿を食い入るように見つめ、ある者は下卑た薄笑いを浮かべながらその裸身のすみずみまで舐めるような視線を這わせ、あるものは好奇の視線を送りながらも彼女の女の本能を消費する。

 そして彼女自身は、そのような周囲の男たちから注がれる欲にまみれた視線をさらなる快楽へと変えながら、ただ一人快楽の頂点を極めるべく夢中で腰を揺すっていた。

 その白い喉はしっかりと反らされ、激しい振動に自在に形を変える乳房の色づいた先端は、傍目からもわかるほどに興奮に尖って自分自身を主張していた。

 長谷部の男根を咥え込んでいる彼女の下の唇も、薄い下生えの隙間から幾度もその秘められた姿をのぞかせて、そのたびに彼女の痴態を鑑賞する男たちをよりいっそう沸き立たせた。

 周囲から彼女に注がれる好奇の視線はいよいよ強まり、その場に居合わせた男たち全員に視姦されながら、審神者は我知らず歓喜の笑みを浮かべていた。

 ああ、こんなにも多くの男たちに視線で犯されている。愛の営みに溺れる無垢な姿を鑑賞されている。

 その事実がもたらす恍惚はあまりにも大きく、狂おしいほどの悦楽の奔流の中、彼女はついにたったひとり性の頂点を極めて……。



 けれど、さすがにそのような行為を現実の世界で行うことなどできない。

「も、ダメよ…… そんなの……」

 さすがに、いかな自分といえども。そのようなことを本当にしてしまったら、恥ずかしくて生きていけない。こうやって空想することすら、浅ましいと思うのに。

 審神者のそのような胸中を知ってか知らずか、長谷部は穏やかに苦笑すると。

「……ご安心を。さすがにそのようなことは致しませんよ」

 ははっ、と小さく吐息だけで笑う長谷部だが、その口ぶりに形容しがたい胡乱さを感じ取り、審神者は一抹の不安を覚える。

「連中に見せつけてやりたい気持ちもありますが、それよりも…… やはりあなたのことは、誰にも見せたくはありません」

「長谷部……」

「……野外で楽しむのは、旅先でだけにしましょう」

 長谷部のその言葉にようやく安堵を得た審神者は、ついうっかりと頷いてしまい、そんな彼女に気がついた長谷部は、先ほどまでとは違う酷薄な笑みを浮かべる。

 無自覚ながらも審神者は確実に逸脱しつつあった。彼女が道を踏み外し狂い始めた瞬間があったとすれば、きっとこのときからだろう。

 長谷部の胸の内に、丹精込めて世話をしてきた花が咲いた瞬間の喜びにも似た感情が満ちる。この不思議な充足感はやはり何度味わっても良いもので。

 今このときをともに過ごし、自分にこのような気持ちを味あわせてくれた、今の主であるこのひとのことを、自分は決して永遠に忘れることはないだろう。これから先、誰に仕えることがあっても。

 刀であった自分に初めて人の身を与えてくれて、全てを捧げるようにして愛してくれた、この夏の夜空のもとで忘れられない美しくも淫らな姿を見せてくれた、愛しい女主人のことを……。

「……さて、今度は後背からいたしましょうか」

長谷部は再び審神者を促すと、彼女を抱え上げた。



***



 手近な木立に手をつき腰部だけを突き出した審神者は、その無防備な下肢を長谷部に存分に愛されていた。

 先ほどまではらしくないほど饒舌だった彼はもう黙り込み、審神者の腰をつかんだまま、脚の間の秘裂に差し入れた自分自身で、まるで彼女を悦楽の高みに攫おうとするかのように、ただ無言で突き上げていた。

 睦言に興じていたこれまではしっかりと意識できなかったけれど、この露天風呂の庭園は思った以上に野趣あふれたもので、ともすれば本当にどこかの林の中で交接を行っているかのようだ。

 長谷部との交合のさなかに景色を楽しむ余裕はないけれど、間近で聞こえるざわざわとした葉擦れの音に、無防備な裸身を撫でる心地よい夜風は、今自分たちが体を絡ませているこの場所は、まぎれもなく野外なのだと実感させてくれる。

「……ああっ!」

 蜜壺の中のいっとうよい場所を長谷部の雁首にこすられて、審神者はひときわ甲高い声をあげて悦ぶ。

 最初は隣室の客に声を聞かれることを不安に感じていたけれど、もはや全ての恐れや羞恥は長谷部の手により溶かされて、彼の愛撫によって思考を麻痺させられていた審神者は、今はもう自分自身の淫らな声を聞かれることくらい、些末なことのように感じていた。

 そう。さなかの喘ぎを聞かれるのも、一糸まとわぬ裸身を垣間見られるのも、自らの秘唇で男の肉棒をくわえながら惚けた笑みを浮かべているこの姿を、誰ともわからぬ人々に覗き見られてしまうのも、もう構わない……。

 むしろ、愛する男にこれほどまでに尽くされながら悦楽の頂点を迎えようとしている、女として最も美しく幸福な瞬間を他者の眼前で披露できることは、むしろ誇らしく喜ばしいとさえ思えるようになっていた。

 審神者は、少しずつ狂い始めていた。果たしてそれは野外での交接の快楽のせいか、あるいは彼女と想い人とを照らす夏の夜の月の光のせいか。



 やがて、ようやくそのときが訪れる。審神者のその場所に長谷部がひときわ強く腰を打ちつけて、白く濁った欲の全てを彼女の中に注ぎ込んだ、すぐあとに。

「あああ…………っ!」

 あられもない声を上げ、審神者もまた愛欲の頂を極めてしまう。想像を絶するほどの解放感と奔放な心地よさに呑まれた彼女は、自らの身体を支えることができず、その場に倒れこみそうになってしまうが。すかさず長谷部が腕を伸ばし、無防備な裸身を抱きとめながら座り込む。

 ちょうど愛しい男の腕の中に崩れ落ちるような格好となった審神者は、どこまでも甘美な交わりの余韻の中で、惚けたような笑みを浮かべると。

「……お外でするの、すごく良かった……」

 無意識のうちにそう口にして、そのまま意識を手放した。そんな彼女を抱きとめたまま、長谷部は口の端を上げて笑う。今宵もまた自らの女主人の新たな勘所を見つけ、さらなる充足を与えてやれたことに、満足感を得ているのだろう。

 しばしの間、長谷部は愛おしげな眼差しで、自らの腕の中で果ててしまった審神者を見おろしていたが。不意に彼は、審神者のほっそりとした白いうなじに唇を寄せた。

 最初は触れるだけの優しいもの。しかし、その口づけはすぐにきつく吸い上げるようなものに変わってゆく。まるでその場所から彼女の生き血を啜っているかのような、激しい口吸いだ。

 審神者のうなじに無数の紅の花弁が散らされてゆく。見える場所に痕をつけることは禁じられていたが、こらえきれなかった長谷部は、彼女が果てているのをいいことに、日頃抑えていた衝動を発散させていた。

 今の彼の姿は刀剣の付喪神などではなく、さながら乙女の生き血を啜って生きる西洋の魔物のようだった。他者の血を吸い自らの眷属に仕立て上げる、闇の世界の美しき誘惑者……。それはまさに今の長谷部そのものだった。

 長谷部は審神者の無防備な素肌に紅の痕を散らしながら、今宵の情交を反芻する。遮るもののない開かれた世界で本能のままに乱れる彼女は神々しいまでに美しく、今宵の交接はまるで一夜の夢のように素晴らしかった。

 闇の中で白い裸身をしならせる可憐な彼女はまさに、夏の夜のたった数刻、美しい花を咲かせるという月来香のようで。



***



 気がつくとすでに夜は明けていた。

「あれ、私……」

 審神者は旅館の部屋に敷かれた布団の上で眠っていた。身体には夏用の薄手の布団が掛けられている。近くに置かれていた時計を見ると昼餉の時刻も迫っており、それに気がついた審神者は慌てて身体を起こし、居住まいを正す。

「――お目覚めですか」

「長谷部」

 相も変わらず。情を交わした翌朝だというのに、彼には一分の隙もない。旅館の部屋に置かれていた浴衣をきっちりと着て、こちらを見つめてくる恋刀に、審神者はなぜか恨めしい心持ちになってくる。

 昨晩はあんなにも自分を乱れさせておいて、今はこんなにも涼やかなすまし顔。まるで昨夜のことなんて全て忘れてしまったかのようで……。

 だけど、自分は何一つ忘れてなんていない。交接の最後に甘い余韻に浸りながら、彼の腕の中で囁いてしまったあの言葉も……。

『……お外でするの、すごく良かった……』

 あまりにも破廉恥な、あんなこと口に出すつもりはなかったのに。自分でも気づかないうちに、はしたない本心はその唇から滑り出ていた。

 自らのあまりの浅ましさに審神者がいたたまれない思いで俯いていると、不意に長谷部が何かを差し出してきた。

「……主、こちらをどうぞ」

 彼の手にあったのは、繊細な白い花の細工が飾られている高価そうな簪だった。

「……今朝、探し求めてまいりました。あなたのために」

 差し上げますと続けられて、審神者は目を見開いて長谷部を見上げる。

「いいの……? こんな……」

 見るからに高価な贈り物。素敵なお品で気持ちはとても嬉しいけど、なんでもない日にこのようなものを贈られる理由が分からず、審神者は戸惑いを隠せない。

「……構いません。この旅の記念です。受け取っていただけますか」

「……長谷部」

 このような深い関係になるまでは、堅物で武骨なばかりの刀だと思っていたのに。けれど素顔の彼は何かにつけてこのような気遣いで彼女を喜ばせてくれる、とても優しいひとだった。

 審神者は瞳を伏せて、長谷部に礼を述べる。

「……ありがとう、とても綺麗ね」

「――月来香の花簪です。月下美人とも言いますね。夏の夜に一晩だけ咲くという白い花です」

「そうなの……」

 その花の名は聞いたことがあった。夏の日のたった一夜だけ、夢のように美しい白い花を咲かせるという、あの……。

 可憐で儚い花姿に、えもいわれぬ馨しい芳香を持つその花は、出会うことが出来れば、生涯忘れ得ぬ思い出になるというほどの美しさだそう。

 そんな神秘的な花をあしらった装身具を贈られて審神者は上機嫌だ。簪の白い花弁を見つめながら頬を淡く染めて微笑む。

「……とってもロマンチックね」

 そんな彼女を眺めながら、長谷部はひとり空想に耽る。

『……ええ、昨夜のあなたがこの花のように美しかったので』

 これを買い求めてきたのだと。そう口にしたら、この素直な人はどんな顔をするだろう。

『満天の星空のもと遮るもののない世界で、月の光を浴びながら、生まれたままの姿でどこまでも俺を魅了した美しいあなたは、まるであの花のようでした』と。

 簪を贈られて何も知らず喜ぶ審神者を眺めながら、いつかそんな彼女を自分だけの世界に攫いたいと。長谷部は胸の内に燻るほの昏い願いを呑み込んだ。







END





以下あとがきあります






あとがき

お疲れ様です、作者です。
一年以上ぶりの更新となりました。本当にお久しぶりです。

二次創作は2012年から続けているのですが、
ここまで長いお休みを頂いたのは初めてです……。
私生活のほうがずっと立て込んでおりまして、
改めてパソコンに向かう余力がありませんでした。
たいしてうまくもないのに無駄に頑張って張り切ってしまって
結果全く更新ができなくなるこの病気……
これまではわりとない知恵を絞って地の文を沢山書く方だったのですが
それだともう創作が続けられそうにないリアルの忙しさなので、
これからは地の文あっさり目の短いお話を書いて
無理ないペースで創作ができたらいいと思います。
作風の変更って難易度高そうなんですが、
自分なりに挑戦してみたいです……。

そして、今回の長谷部くん。
やっぱり彼は可愛いですね。
私の場合だと何度書いてもこういう系の
かわいい可哀想ヤンデレイケメンヘラになってしまいます。
そしていちいちプレイが過激っていう(笑)
自分も書いたことのないプレイやシチュに挑戦してみようと思って
テーマを設定して書いているのですが
そうするとなんかもう毎回毎回過激でクレイジーというか
一応女性向けなのでキレイなエロを目指して書いているつもりなんですが、
不快になってしまった方がもしいらっしゃったら、申し訳ありません。
しかし長谷部くん、かわいい、かっこいい、大好きだよ!!

刀剣ジャンル以外では俳優さんつながりで
薄〇鬼の土〇編のミュージカルを見て、
某主演俳優さんがヒロインの吸血をするシーンに燃えてしまったので
本作でもそういったシーンを少しですが入れてみました。
ちなみにこちらのジャンル、原作ゲームも購入しましたので、
少しずつやってみたいなと思っています。
絵も綺麗で内容も面白いらしいので、とても楽しみです。

あとは今回の作業用BGMなのですが、こちらも俳優さんつながりの
某Fな6名の方の「マジカル・ナイト・サティスファクション」(原題は英語です)
でした。こちらもとてもセクシーでドキドキする良い歌だと思いました。
少し上から目線なところがキャラらしくて、お気に入りです。


しかし長谷部くんはかわいいですね。
リアルが忙しくままならないことも多いのですが、
機会を見つけてまた創作やれたらいいなと思っておりますので、
差し支えなければコメントなど、お気軽にお寄せいただけたら幸甚です。

(ピクシブのプロフィールのリンクに個人サイトやTwitterのURLを張っており、
それぞれに匿名でコメントがおくれるツール(ウェブ拍手やマシュマロなど)
を設置しております)


それではまた。
今年もよい一年をお迎えください。
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