◆刀剣・刀さにNL小説◆

□【長谷部】宴のあと〜蜜の残り香〜
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 自分の前では素知らぬふりをしていても、隠れて呑んでいるのを知っている。宴会があったわけでもないのに、厨房の買い置きが減っているのを不思議に思ったとき、燭台切が教えてくれたのだ。

『――……長谷部くんだよ。ああ見えて意外とね』

 彼が自分の前では決して見せようとしない姿、男士同士の間でしか見せない飾らない素顔を覗き見て、不思議なほどの昂りを覚えた。ともすれば粗野なその一面を、たまらない男らしさのように感じて。

 再び唇を重ねてくる長谷部の背に、審神者は細い腕を回す。ぴんと張られていた敷布に皺が寄り、行為の激しさを物語る。

 先に生まれたままの姿になっていた審神者を追うように、長谷部もまた全ての衣服を脱ぎ捨てて、いつしか二人は一糸纏わぬ身体で絡み合っていた。

 先ほどの宴席で離ればなれだった寂しさを埋めるかのように、長谷部と審神者は互いの温もりと存在を、貪るように求め合う。部屋を満たす深い夜の気配に、濃厚な酒の香りが溶けてゆく。

 辛口の洋酒とクロスグリの豊かな芳香は、不可分なほどに混じりあい、やがて溶け合いひとつになる。



「……っ、長谷部……」

 無遠慮に体重を掛けられて、審神者は痛みに眉を寄せる。

 酒のせいか今宵の長谷部はどこか様子が違った。乱暴な愛撫に審神者の呼吸はすぐに上がり、この調子では最後までもたないかもしれないと彼女は危惧する。

 しかしそんな審神者をよそに、長谷部は己の欲望だけを満たすように、身勝手に行為を進めていた。彼女の胸元に顔を埋め、柔らかな肌に唇を寄せる長谷部は、それこそまるで甘い果実酒を味わっているかのようだ。

『……ひとたび口にすれば、もっと欲しくなる……』

 求めてやまない存在なのだと、長谷部はその愛し方によっても示していた。彼女の鎖骨に唇を這わせては、きつく吸い上げ痕を残す。

 長谷部が彼女の身体に情交の痕跡を残したがるのはいつものことだ。しかし、今彼が痕をつけているのは衣服で隠れない箇所だった。

「っ……! 長谷部……!」

 普段から見える場所は駄目だと言っていて、長谷部もそれに従っていたのに。今宵の長谷部はやはりどこか違う。

「ねえ長谷部…… もしかして酔ってるの……?」

 おもむろに審神者に尋ねかけられ、長谷部は彼女の身体から唇を離し、思案気な顔をする。

 しかし、それもひとときだけのことだった。何かを察したらしい長谷部は、薄い笑みを浮かべると。

「……ええ、酔っていますよ。先ほどの宴席では、つい酒が進んでしまいました。――あなたのせいでね」

 囁くように付け加えられた言葉に、審神者の背筋を冷たいものが駆け抜ける。

「あなたという人は本当に悪いお方だ。他の男の酒で酔うなんて……」

 一見そうは見えなくとも。先ほど本人も口にした通り、長谷部は相当に飲んでいるようだ。酔ったふりではなく、本当に酒が回っている様子で、彼女が不審に思うほど饒舌で、幼い子供のように素直だった。

 しかし、そんな剥き出しの独占欲をこちらに向けてくる彼に、審神者は罪深い高揚を覚える。

恋 した男にこれほどまでに求められるのは、まさに女冥利に尽きる。憎しみにすら似た激しい嫉妬を向けられて、強い支配欲を示されるのは、それこそ言外に「あなたがいないと生きていけない」と縋られているようで。

 今でも夢を見ているようだ。これほどまでに自分を求めて必要としてくれる人が、この世に存在するなんて。

 審神者は小さく喉を鳴らす。

 我ながらどうかしている。心に深い傷を抱え、その痛みに苦しむ哀れな恋人が、あまりにも愛おしくて。いけないとわかっているのに、今にもこちらに牙を剥きそうな、手負いの獣のような彼を煽ってしまう。

 いまだ赤黒い血をにじませる長谷部の心の古傷は、彼の最も純粋で無防備な部分だ。自分を惹きつけてやまないその愛しい欠落に、審神者は吸い込まれるかのように手を伸ばす。潔癖な忠義の下の歪み爛れた本性に、すっかり魅入られてしまっていた。

 美しい彼が痛みに喘ぐ姿を見たくて、怖ろしい人ならざる彼の欠落に、愛しい人の一番愛しい部分に、審神者はそっと触れた。強がりの仮面の裏に泥ついた物思いを抱える恋人の、心の最果てにまでさらわれたかった。

「ねぇ長谷部、抱いて……?」

 審神者はわざとらしく息を吐き、燭台切に飲まされた果実酒の甘い香りを漂わせる。

 他の男の濃厚な気配に長谷部は不快そうに眉を顰めるが、危うい光の宿る冷たい瞳を細めると、生まれたままの無垢な身体を横たえる彼女を見おろして、薄く笑った。

「……ええ。主命でなくとも、そうさせて頂きますよ」

 他の男が残した香りを纏った裸の身体を、誰よりも嫉妬深く独占欲の強い恋人に抱かせるのは、この上もなく甘美な罪の味がした。



***



 長谷部の手によって、敷布の上に脚を広げて座らされた審神者は、背後から腕を回されて、まるで後ろから抱かれるようにして、その無防備な裸身に淫らな仕置きを加えられていた。いわゆる四十八手の乱れ牡丹だ。

「……もうこんなに濡らして、そんなにこちらがお好きなのですか?」

「っ……」

 脚の間の秘裂を長谷部に容赦なく弄られて、審神者は甘やかな息を吐き、睫毛を伏せて俯く。

 その視線の先にある彼女の秘裂には、充血した男性器を模した太い張形が差し入れられ、長谷部の手によって巧みに抜き差しをされていた。

 太く長くしっかりとした固さを持った張形の表面には、大粒の真珠のような装飾が螺旋状にびっしりと施されており、そのような異形のものを自らの秘部で受け入れるのに、審神者は戸惑ったが、愛する長谷部の甘言により今やすっかり篭絡されていた。

 発情しきった彼女のそこは、異物を埋められているというのに、生身の男の肉棒を咥えているときと同じ随喜の蜜を溢れさせ、彼女が今まさに快楽を享受していることを、長谷部にまざまざと伝えていた。

 張形の表面に螺旋状に配された大粒の宝珠は、抜き差しのたびに審神者の女陰にえもいわれぬ刺激を与え、生身の男の肉棒とは違う無機物の冷たさと異物感は、彼女のそこに非日常の快楽を与えていた。

 生身の男のものがくれる快楽とは別の心地よさの虜となってしまった審神者は、恍惚に浸った様子で喘ぐ。

 愛する男から自身の秘部へと下される淫猥な罰は、心の内に被虐趣味を隠し持つ審神者にとっては、これ以上ないほどの褒美であった。

 残酷な捕食者にいたぶられ存分に責められる甘美な被虐の悦楽は、審神者の肉体の最も素直な部分を捕えて離さない。

 交合のさなかに道具を使うのは初めてではなかった。自らの主人にさらなる歓びを与えるために、長谷部はときおり玩具を持ち出すことがあった。

 女の身体を善がらせるために作られたものたちによって、与えられる快楽はたまらないもので、審神者は存分に乱れ喘いでしまったけれど。自分以外のもので快楽を得る彼女を許容できなかった長谷部のせいで、それらはすぐに使われなくなってしまった。

 しかし、今は。他の男士への嫉妬にかられた長谷部によって、まるで仕置きのように長い間、審神者の肉体へと使われていた。

「ああ……っ!」

 審神者は無防備な裸の身体を背後に陣取る長谷部に預けて、玩具によってもたらされる悦楽にその身を甘く震わせる。

愛 しい彼に抱かれながらその腕の中で喉を反らして、息も絶え絶えにつぶやく。

「気持ち…… いいの…… 長谷部……」

 自分自身の体内で、巨木の幹のような男根と美しい螺旋模様を描く大粒の真珠が織りなす快楽の奔流に呑まれながら、審神者は嫣然と微笑む。

 激しく渦を巻きうねる海面に呑み込まれるかのようなそれは、審神者の無垢な肉体を捕えて離さず、彼女は自身の全てを打ち捨てて、長谷部によってもたらされる、目も眩むほどの心地よさに浸っていた。

「ああっ…… すごくいい……」

 てらいなくそう口にして、ひときわ甘やかな息を漏らす彼女に、長谷部もまた満ち足りた笑みを浮かべる。

「……ええ、存じておりますよ」

 もうすでに審神者の秘唇の内側はぐっしょりと濡れ、抜き差しされている張形もそれを操る長谷部の指先も、彼女が溢れさせた蜜によって、雨にでも降られたかのようになっていた。しかし審神者は、浅ましくもさらなる愛撫を長谷部に求める。

「ああっ…… 長谷部…… もっと……」

 愛の営みのさなかの審神者の素直さは、長谷部の下腹部のその場所をさらに固く熱くさせる。

 長谷部は彼女のそこに押し込んだ張形をすぐにでも引きずり出して、自らの灼熱の楔を打ち込みたい衝動をこらえながら、彼女の秘裂の上端の小さな肉芽に指を伸ばす。そのまま、それをきゅっと摘まんだ。

 長谷部にとって、それはまるでか弱く愛くるしい子ウサギを嬲る嗜虐の悦楽であった。

 情人でもある彼の主人は、湿り気を帯びた荒い呼吸を繰り返しながら、女人の最も感じてしまう肉の宝珠を、長谷部の好きに弄られていた。

 男のものを模した玩具を肉体の最奥まで押し込まれ、秘裂の上端の宝珠を長谷部に存分に嬲られている審神者は、今まさにただ一人性の極みへと上り詰めようとしていた。

 無防備な裸の背を情人に預けて、白い喉をぐっと反らしながら、審神者は瞳を閉じてひときわ甘く高い声で喘ぐ。

 その余裕のない姿からは、もう少し責めてやればいとも容易く彼女が果ててしまうことがうかがえた。

 そんな審神者の寸前をたゆたう媚態を楽しみながら、長谷部は彼女の耳殻に甘く歯を立てて、そのまま密やかに問いかける。

「……ここまできちんと道具を使ってみたのは初めてですね。いかがです?」

 愛する男に秘唇と陰核をいちどきに嬲られながら、誰よりも甘い声でそんなことを尋ねられてしまったら、もう嘘などつけるはずもない。

「すごく…… いいの……」

 すっかり余裕をなくしている審神者は、形のよい唇を震わせながら、何のてらいもなく自らの浅ましい願いを口にする。

「もっと…… よくして……?」

 女陰の宝珠への愛撫は、彼女をどうしようもなく素直にさせる。その場所をほんの少し弄られただけでいとも容易く快楽に囚われ、審神者はただ長谷部の言いなりの人形となってしまうのだ。

 そんな彼女を見おろしながら、長谷部は唇の端を上げて笑う。美しく可憐な女主人の唇から、淫らな命を引き出し応える。それは主に仕えることに無上の喜びを見出す長谷部にとっては、恍惚にも似た心地よさを覚えるひとときだった。

「仕方のない方ですね…… それでは――……」

 長谷部は審神者に求められるままに、上の口で充血しきった長谷部自身を咥えるように、優しく促してやる。

 下の口で巨木の幹のような張形を咥え込みながら、上の口でも長谷部自身を咥えるなど、あまりにも破廉恥な要求だ。しかし彼女の被虐趣味を知る長谷部にとっては、これも奉仕の一環だった。

 審神者は小さく頷くと、焦点の定まらぬ瞳で淡い笑みを浮かべる。





「んっ…… っ……」

 敷布の上に座する長谷部の脚の間に顔を埋め、審神者は充血しきった長谷部自身を夢中で頬張っていた。まるで伸びをする猫のように、頭を低くし膝を立て、腰を高く突き出して口淫に耽っている。

 審神者として采配を振るうときの凛々しい姿とは全く違う、雌の動物のような浅ましい彼女の姿を、長谷部は悦に入った様子で見おろす。

 充血した男のものを模した玩具に、秘裂の最奥まで貫かれているせいか、今宵の審神者の長谷部への奉仕は、かつてないほど熱の入った丁寧なものだった。

 張り詰めた長谷部自身の裏筋や雁首を丹念に舐め上げ、喉の奥までしっかりと口に含むと、巨木の幹のようなそれを何度もきつく吸い上げる。

 一体どこで覚えてきたのかと不審に思うほどの彼女の巧みな奉仕に、長谷部は口内で果ててしまいそうになる自分を懸命に律した。

 いかに上の口といえども、粘膜による触れ合いはたまらない心地よさで、充血しきった自分自身を包み込む、ぬるりとした快楽から意識を逸らすために、長谷部は審神者の髪を撫でながら、口淫に耽る彼女の艶麗な在りようを鑑賞する。

 長い睫毛を伏せて長谷部のものを幸福そうに頬張る審神者は、とても可憐で美しかった。

 上下の口を男のもので貫かれながら、恍惚の笑みを浮かべる様子はこの上もなく淫らで、その姿はまるで春画に描かれる、何人もの男たちの手で無垢な裸身をいちどきに愛されて悦ぶ、浅ましい女のようだった。

 充血しきった男のものを上下の口でくわえ込みながら、両の乳房を強くつかまれて、無防備な裸の身体を男たちに愛撫されながら性の喜びに浸っている、幸福そうな女……。

『――どんなに貞淑そうなふりをしていても、見目のよい男たちを侍らせてその無防備な肉体に淫らな奉仕をさせるのが嫌いな女などいないのだ――』

 以前目にした春画にはそのように描かれていたが、一見清らかでしとやかに見える彼女も、そのような浅ましく強欲な一面がるのだろうか。

 自らの独占が脅かされるように感じ、長谷部はにわかに不安を覚えるが、肉体が覚える快楽と彼女の心性は別だと思い直す。

 そして。不意に彼女の後方に小さな鏡台を置いていることを思い出した長谷部は小さく喉を鳴らすと、そちらの方に視線をやった。

 灯りを落とした薄闇の中、その鏡面には長谷部が求めていた光景が、しっかりと映し出されていた。

 細い腰から扇のように広がる女性らしい丸みを帯びた臀部に、控えめに窄まった後孔の下にある、まるで咲きかけた花のつぼみのような可憐な秘裂の在りようだ。

 脚を広げて膝を立て腰を突き出していたからか、彼女の脚の間の様子は意外なほどに見通せた。

 自分が日頃性器を差し入れている秘唇には今は男根を模した異物が押し込まれ、彼女の上の口での奉仕に熱が入るたびに、その細い腰とまろやかな臀部は、まるで長谷部を誘うかのようにゆらゆらと揺れる。

 生まれたままの無垢な姿で、本能のままに長谷部のものを貪る審神者は、まるで自身の痴態を彼に見せつけさらなる愛撫を促しているかのようだ。

 長谷部は鏡の中の主人の痴態にひとときの間見惚れた。こんなにも愛くるしい主の姿などこれまでに見たことがない。
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