◆薄〇鬼NL小説◆
□【SSL沖千】キャンディキスチャレンジ
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「せ、先輩。食べ終わりました」
「はーい」
明るく返事をして、沖田は閉じていた目を開けた。
「それじゃあ、千鶴ちゃんとやらしい味当てゲーム、しちゃうね?」
多少の引っ掛かりを覚えつつも、いかにも楽しげな彼の言葉に頷いて、千鶴は顎を上げて瞳を閉じた。先ほどの彼と同じキス待ち顔。だけど、恥ずかしくて仕方がない。
改めてキスを待つのってこんなに恥ずかしいんだ。逃げ出したい気持ちをこらえて、千鶴は自分の膝の上に乗せた手でぎゅっと握りこぶしを作る。身体の震えを誤魔化すにはそうする他なかった。
「それじゃあ、いただきま〜す」
閉じられた瞼の向こうで彼が楽しそうに笑って、首の後ろに両腕が回されて、いよいよ彼の身体が近づいてくる気配がした。まるで食べられちゃうみたいでドキドキする。
互いの唇が触れ合うと同時に千鶴は薄く口を開けた。すると、ぬるついた舌が入り込んでくる。
「……っ!」
舌を入れるキスはやっぱりちょっと苦手だ。小さく身体を震わせて、千鶴は反射的に沖田にしがみついてしまう。彼の腰のあたりの衣服をぎゅっと握りしめる。
すると、沖田は千鶴を安心させるように、大きな手のひらを彼女の背に回して優しく撫でてくれた。そのまま腕に力を込めて、沖田は千鶴をなだめるように抱き寄せながら、彼女の口内を舌で丁寧に探ってくる。
沖田はずるい。こんなふうにされてしまったら、ただのゲームを愛情表現と錯覚してしまう。
「……っ、せんぱい」
「っは、千鶴ちゃん…… すっごく美味しい……」
口づけの合間に交わされるやり取りは、なんだかとてもいやらしい。沖田は恍惚に浸った様子で緑の瞳を溶かしながら、うわごとのように囁く。
チョコにも舌を絡めるキスにも催淫効果があるっていうけど、本当なのかな。まるで裸の身体を重ねている最中のような彼の様子に、千鶴も小さな胸を高鳴らせる。
最初はこの淫らな味当てゲームも恥ずかしくて嫌だったのに、今やすっかり楽しんでしまっていた。自分もまた甘いお菓子の味のするいやらしい口づけの虜になっている。
気がつけば、千鶴は自分から身体を寄せて沖田の口づけに応えていた。沖田の広い背中に腕を回して、彼の身体に自分の胸を押しつけながら、舌を絡めるキスをして。
やがて、どちらからともなく唇が離されて、口元を親指で拭いながら、沖田は自信に満ちた笑みを浮かべると。
「……アーモンドかな?」
「当たりです」
千鶴はこくりと頷いた。
「千鶴ちゃん、わざとわかりやすい味選んだでしょ」
「だ、だって」
「まあ別に君らしくていいけどね。……それじゃあ、続きしよっか」
「えっ……!?」
「まさか、これで終わりなわけないでしょ。一回で当てれたご褒美が欲しいな」
「そ、そんな、総司先輩……」
「総司でいいよ 先輩はいらないから」
動揺する千鶴に沖田は瞳を細めて余裕たっぷりに笑うと。
「ほら、もっといっぱい…… キスしようよ。千鶴ちゃん」
艶やかな囁きはずるいほどに格好いい。無意識に逃げようとする千鶴の腕を掴んで自分の方に引き寄せて、沖田は千鶴の首の後ろに手を回して再び彼女の唇を奪った。
強引な口づけに千鶴は嫌がるそぶりを見せるが、そこでやめる沖田ではない。千鶴の拒否は単なる羞恥と知っているから、そのままなしくずしに行為を進めようとする。
「っ…… 総司先輩……」
「っは、千鶴ちゃん……」
自分の身体を千鶴の身体に押しつけて、沖田はさらに二人の密着度を高めてくる。千鶴のシャンプーの香りが鼻孔をくすぐり沖田は甘い眩暈を覚える。千鶴もまた沖田の香水のシトラスに理性を溶かされていた。
爽やかで軽やかで、どこか冷たくてとらえどころがなくて、けれど柔らかくて温かな柑橘の香りは、なんだか彼自身に似ている。
千鶴の抵抗が緩んだ隙に、沖田は彼女の唇の隙間から舌を差し入れた。そのまま先ほどの味当てゲームとは比較にならないほどの、本気の口づけを千鶴にお見舞いする。
「っ……! せんぱ……」
千鶴の小さな悲鳴は、そのまま沖田の唇に吸い込まれてしまう。
やがて、口づけを終えると。千鶴はもう完敗ですとばかりに、真っ赤な顔で口元を押えて俯いてしまった。
「……僕、さくらんぼのへた口の中で結ぶの得意なんだ。千鶴ちゃんは苦手そうだよね」
そんな彼女を見おろしながら、沖田は意地悪な笑みを浮かべる。まるで千鶴をからかうような。図星だったのか、千鶴は大きく肩を震わせて、おそるおそる彼を見上げた。
器用で何をやらせても一通りこなしてしまう沖田は、キスもとても上手かった。
「ありがと、千鶴ちゃん。やっと満足できたかな」
瞳を細めて不敵な笑みを浮かべて、沖田はぺろりと舌なめずりをする。彼の仕草や表情のひとつひとつがとても色っぽくて、千鶴は羞恥と戸惑いで視線を泳がせてしまう。沖田はそんな彼女に向かって。
「続き、ベッドでしちゃう?」
「し、しませんっ!」
「なんだ、しないのかぁ。……でも、君がしないっていっても僕がしちゃうんだけどね」
あっと思う間もなく、千鶴は沖田にお姫様抱っこで抱え上げられた。
「っ、総司先輩! さっき満足したって言って……!」
「忘れたなぁ。そんなことより、先輩はいらないって言ってるでしょ?」
沖田の『先輩はいらない』は、今や合言葉がわりになっていた。『君としたい』彼がそう思ったときに口にされる、二人だけの秘密の。
「……ねぇ、味当てゲームどうだった?」
「す、すごかったです……」
「何それ」
千鶴の要領を得ない返答に、沖田は苦笑する。千鶴をベッドに降ろして、沖田はそのまま彼女を組み敷いていた。彼の悪戯な片手はすでに千鶴のトップスの中に入り込んでおり、ちゃっかりと胸に着けている下着のホックを外している。
「そ、総司先輩っ…… ダメですっ……」
容赦なく行為を進めようとしてくる沖田の手をのけようとする千鶴だが、彼女のささやかな抵抗が彼に通じるはずもなく。沖田は下着の間に大きな手のひらを差し入れて、千鶴の胸の膨らみを優しく揉み始めた。
「っ、あっ……! やっ……!」
感じてしまう場所への直接の愛撫で、千鶴の声が甘く淫らに震えてしまう。
「ん、いい声だね…… いいよ、千鶴ちゃん」
クスクスと含み笑いを漏らしながら千鶴の身体の感触を楽しみつつも、沖田は彼女に問いかけた。
「あんなのただの深いキスじゃない。もしかして、千鶴ちゃんはああいうキス苦手?」
「ちょっとだけ……」
「でも僕は好きだからいっぱいしようね」
「っ、総司せんぱ……」
「ほら、もう黙って」
「っ……!」
不意に沖田は千鶴の胸を揉むのをやめると、今度は彼女のスカートをたくし上げた。そのまま、沖田は千鶴の下着の上から、彼女の秘部を刺激し始める。
「あっ、せんぱい……! ダメです…… もっ……」
「ダメじゃないでしょ、ほら、もう諦めて?」
沖田の欲望の熱を帯びた囁きとともに、彼の下腹部が千鶴の身体に押しつけられる。沖田のその場所はしっかりと充血し存在を主張していて、千鶴はますます追い詰められてしまう。
「……千鶴ちゃんだって、こここんなに濡らしてるくせに、往生際が悪いよ?」
沖田が欲望にぎらつく瞳を細めてそう口にした、そのとき。ピンポーン、という玄関のチャイムが階下から響いてきた。
「っ……! で、出ないと……」
千鶴は沖田の身体の下から半ば無理やり抜け出すと、そそくさと身支度を整え始める。
「えっ、居留守でいいじゃない…… ダメ?」
「でも……」
「今は、僕のことだけ見ててよ。千鶴ちゃん……」
今にも彼のもとを離れ、階下に向かおうとする千鶴の腕を掴んで。沖田は切実そうに見上げてくる。
燻る熱をその奥に宿した、濡れた緑の瞳。その危うい輝きについ流されて、彼の願いに応えてしまいそうになるけど。
大好きな人に剥き出しの欲望を向けられる女としての嬉しさも、ないわけじゃないけど。
「……だ、ダメです! すぐ戻りますから、総司先輩はここで待っていてください」
以前から、その手口にずっとしてやられている。もう流されるのは嫌で、千鶴は沖田から逃げるようにして玄関に向かった。
乱れた髪を手櫛で直しながら、千鶴はインターホンで応対する。
『千鶴〜 文化祭の写真、龍之介がお前に渡してくれって言ってたやつ、持ってきたんだけどさ!』
「へ、平助君。わかった、ちょっと待ってね」
来客はお隣さんの藤堂平助だった。沖田のこともあり少し迷ったが、物品の受け渡しなら時間もかからないだろうと千鶴はドアを開けた。沖田にも待っていてって言ったし大丈夫なはず。
「よぉ、千鶴! 悪いな、急に来ちまって。はいこれ、龍之介から」
「ありがとう。私の方こそ、わざわざごめんね。平助君」
「別にいいって、どうせすぐ隣なんだし。あれっ。千鶴、もしかして寝てたのか? 髪の毛が……」
「えっ……!? 別に違うよ……」
意外に目ざとい藤堂に痛いところを突かれてしまって、千鶴は心臓が口から出そうなほど驚いてしまう。髪は手櫛で直したと思ったのに。先ほどまで沖田とベッドで「してた」痕跡はそう簡単には消せないらしい。
そういえば、胸につけている下着のホックだって外されたままだし。脚の間だってしっかりと濡れていて。
そう思ったら、にわかに恥ずかしくなってきた。けれど千鶴は全力の作り笑顔を張りつけて、藤堂に無難に応対しようとする。
「写真、ありがとね。平助君。龍之介君にもよろしくね。
文化祭、平助君も格好良かったよ。たこやきも美味しかったし……」
「お、ありがとな! すっげー頑張ったから、そう言ってもらえると嬉しいぜ! じゃあ俺、ぱっつぁん先生と約束あるからもう行くな。邪魔して悪かったな、千鶴。疲れてたならゆっくりしてろよ、せっかくの休みなんだし」
「――ほーんと邪魔だよね。平助は」
不意に冷たい声がして、千鶴と藤堂の二人は固まった。声の主はむろん沖田だ。
上階からゆっくりと降りてきた彼は、なぜか髪の毛がくしゃくしゃで部屋着のカーデのボタンも全て外してあって、まさに寝起きというか恋人と肌を重ねた後の無防備な姿そのもので、千鶴は驚きに言葉を失う。
だって、自分はともかくさっきまでの彼はこんな姿じゃなかった。これは確実に、わざと髪の毛のセットを崩して着衣を乱してから、藤堂の前に姿を見せたパターンだ。
不意に現れた沖田の乱れた姿に驚いているのは、千鶴だけではなく藤堂も同じだった。驚愕に目を見開いて口をぱくぱくさせている。
千鶴と藤堂の二人が絶句する中、沖田は乱した髪を手櫛で直しながら玄関土間に視線をやると、不機嫌を隠そうともせず言い捨てる。
「っていうか平助、空気読んでよね。そこに僕の靴あるでしょ」
「あああっ! くそ、気づかなかった! 千鶴しか見てなかったし〜! っていうか気づいてても綱道おじさんのかなって思いたかった……」
平助は赤い顔で頭を抱える。沖田はそんな彼を冷めた瞳で見おろしながら。
「おじさんはこんな靴はかないと思うんだけど。それより今日は僕たちお部屋デートなんだよね。お揃いの部屋着可愛いでしょ」
沖田は黒いオーラを放ちながらも、千鶴を後ろから抱きしめて藤堂に見せつける。
「……だからお邪魔虫はさっさと出て行って」
「っ! くっそ〜〜 総司のヤツっ!」
昔から意外と独占欲が強くて、他の男の子に対して牽制みたいなことをする人だってことは、周囲から聞かされて知っていた。けれど、今日のこれはやり方がひどすぎるというか。
『――僕たち今ヤッてたとこなんだよね。邪魔しないでくれるかな』
沖田の真意は火を見るより明らかで、千鶴はもう真っ赤だ。沖田の方も藤堂の方も恥ずかしくて見れなくて、何も言えなくなってしまう。
藤堂は堂々としている沖田より、赤い顔で俯く千鶴にいたたまれなくなったのか。
「ち、千鶴っ……! なんかすっげーゴメンなっ! またなっ!」
慌てて踵を返すと音を立ててドアを閉め、逃げるように去ってしまった。そんな彼を冷たい瞳で見送ると、沖田は小さく息を吐く。
「……またな、じゃないよね。お届け物なら郵便受けに入れてから、ラインでもくれればいいのに」
「そっ、総司先輩! なんで出てきちゃうんですか、バカっ……!」
「バカって…… 上半身裸で出ていかなかっただけ褒めてほしいんだけどね。我慢したんだよ? これでも」
そんなの輪をかけてひどいし、千鶴にとっては考えられない。今だってわざと髪や着衣を乱して、充分すぎるほど『恋人としてたところです』みたいな雰囲気を出してるくせに。千鶴は赤い顔で文句を言う。
「なっ、何で脱ぐ必要があるんですか! そんなのダメです、ありえないです!」
「え? 必要はあるでしょ。さて、お邪魔虫はいなくなったし、ベッドで続きしよっか、僕のお姫様?」
「も、総司先輩の意地悪……!」
屁理屈の得意な彼にいつもしてやられてしまうのが悔しくて、反抗しようとしたら、とてつもないお返しをされてしまった気がする。
やっぱりどう頑張っても沖田には敵わないのかと、千鶴はうなだれるのだった。