◆薄〇鬼NL小説◆
□【SSL沖千】僕の可愛い子猫ちゃん
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まるで千鶴に恩を着せるように、沖田は君のためにを連呼する。
「い、衣装は井吹君のためであって、私のためじゃないはずです」
「……君ってほんっとうにに真面目だよね」
あからさまにげんなりとした様子で、沖田はため息をつく。自分の気持ちを何ひとつ理解しない、生真面目すぎる恋人に呆れていた。しかし、沖田はめげなかった。瞳に艶めいた光を宿して、吐息交じりに千鶴に囁きかける。
「――僕これでも尽くすの好きなんだよね。君限定でだけど」
「っ!?」
急に醸し出された恋人同士の雰囲気に、千鶴は動揺してしまう。しかし、沖田は平然としていた。そのまま何食わぬ顔で続ける。
「――あ、この場合の尽くすはやらしい意味での尽くすだよ? 念のため言っておくけど」
だからもう井吹君のことは言わないでと、沖田は千鶴に言外の圧をかける。あくまでも沖田の献身は千鶴のため、もしくは自分のためであって、井吹のためではない。
彼らしい回りくどい物言いだけど、千鶴には効果的な牽制だった。
二の句が継げなくなっている彼女に沖田は畳みかける。
「……だから、この格好で君に尽くさせてよ。ね、いいでしょ?」
まだハロウィンは先のはずなのに、今まさにイケメンの狼男さんに美味しく頂かれそうになっている寸前。千鶴は沖田を見上げながら、困ったような拗ねたような様子で問いかける。
「……総司先輩、お菓子あげるので悪戯しないでくださいって言ったら、やめてくれますか?」
「あはは! ――やめるわけないじゃない。くだらないこと聞かないで」
快活に笑ったかと思いきや一転、沖田の言葉にヒヤリとした冷たさが混じる。細められた緑の瞳にはいつの間にか、獰猛な輝きとほの暗い情熱が宿っていた。
「……っ!」
千鶴はもう声も出ない。いつも明るくて冗談ばかりで、二人だけのときは意外なほど甘やかしてくれて。彼がそれだけの人じゃないことくらい、わかっていたつもりだけど。
いざぎらついた欲望を向けられると、少しだけ怖気づいてしまう。
けれど、彼の欲を向けられて千鶴は心の奥底で期待してしまっていた。沖田との愛の行為は楽しくて気持ちよくてすごく幸せだから。
相対する彼女の瞳に、自分と同じ欲望の光が確かに宿ったのを確かめて。沖田はどこか切実な様子で、彼女を強引に口説きにかかった。
「……お菓子ももらうし悪戯もするよ、当たり前じゃない。
僕はね、君に関しては絶対全部手に入れるんだから……」
普段は飄々としているのに、心から愛した人への執着は人一倍強くて。淡泊そうでいて諦めが悪くて、冷たそうでいて、狂おしいほどの熱情を抱えている。
これが、千鶴の愛してやまない沖田という人だった。
「……狼というか、猫みたいですね」
自分を組み敷く沖田を見上げて、千鶴はそう口にする。狼の仮装は黒猫と共通点が多い。三角の大きな獣耳に首輪に黒手袋は、黒猫と言われても納得しそうだ。彼自身も狼というよりは猫のようだから余計に。
「……じゃあ物真似でもしてあげよっか?」
口の端を上げて、沖田は余裕たっぷりに微笑む。自分が絶対的な優位に立っている確信があるからか、今の彼はひどく穏やかだ。
「えっ?」
彼の意外な発言に千鶴は驚いてしまうが。
「――にゃおーん、にゃーん」
驚く彼女を差し置いて、沖田はそう口にして招き猫のポーズをした。そのまま握りこぶしの猫の手で顔を洗う仕草をして、舌なめずりまでしてみせる。意外と似ている物真似はびっくりするくらい可愛くて面白くて、千鶴は吹き出してしまう。
「そ、総司先輩ズルいですっ……! なんでこんなに似てるっていうか、かわいいです……! 面白すぎます……!」
格好よくて可愛くて、そのうえ面白い。改めて沖田は最高の彼氏かもしれない。高い観察力と再現力の賜物なのか。物真似が上手いという意外な特技に、千鶴は沖田に惚れ直してしまう。
けれど、猫の鳴き真似で大喜びしている千鶴とは対照的に、沖田は呆れまじりに息を吐くと。
「……千鶴ちゃん反応よすぎでしょ。そんなに猫好きだったっけ」
「猫も好きですよ、可愛いじゃないですか」
「ふうん…… じゃあ今日は一日猫語でしゃべってあげようか? ――なでてほしいにゃあん、とかさ」
「っ……!」
沖田の猫語に千鶴は目を見開き顔を真っ赤にして口を押える。よほどツボにはまったのか。彼女は目尻を下げて両腕を上方に伸ばすと、沖田をなでなでし始めた
「な、なでてあげますっ……! よしよしよしっ……!」
沖田の柔らかいくせっ毛が千鶴の手によってわしゃわしゃにされてゆく。
「ねえ…… なんかおかしくない? 何で僕はこの状況で君によしよしされているのさ」
一応軽めにセットしている髪型をめちゃくちゃにされるのに若干へこみながら、沖田は唇を尖らせる。恋人をベッドに押し倒しているはずなのに、色気もあったものではない。
「そ、総司先輩っ! ちゃんと語尾に『にゃん』をつけてくださいっ!」
「……嫌だよ。やっぱりやめた。猫語はもうおしまい。雰囲気ぶち壊しになるし」
「え〜〜」
今更ほのぼのとした空気など要らないのだ。今から愛の行為になだれこもうとしてるのに。沖田はむくれるが、そんな彼の本心など知る由もない千鶴は、あからさまにがっかりとした顔をする。
「なんでそんなに残念そうなのさ…… 千鶴ちゃんは……」
「だって……」
千鶴の当を得ない返答に、沖田は不機嫌そうに眉を寄せた。
(ねぇ、君は僕とイチャイチャしたくないの? 久しぶりの二人だけの時間なのに?)
口には出さないけど、沖田がそのような不満を持ったことは顔を見ればわかる。気づいていないのは当の千鶴だけ。そのうえ彼女はこりもせず沖田の物真似への執着を口にする。
「だって…… すっごく可愛かったんです」
「可愛いって…… 可愛い担当は僕じゃないでしょ……」
沖田は心底呆れた様子でぼそりとつぶやいた。
「えっ?」
「何でもない。――それより、猫の交尾ってどうやるか知ってる?」
「っ、え!?」
唐突にそんな話をふられて千鶴は面食らう。しかし、沖田は容赦ない。
「……知らないなら教えてあげる。後ろからするんだよ。雄が雌の首筋を噛んで、押さえつけながらね。――せっかくだから、やってあげるよ」
千鶴を強引にうつぶせにして抑え込み、沖田は千鶴の首筋に歯を立てる。不意に訪れた強い痛みに、千鶴は息をのみびくりと身体を震わせた。怪我をさせない程度に力加減はされてるけど、これは甘噛みではないような。
沖田の突然の荒々しい振る舞いに、千鶴は怯えた様子を見せてしまう。
「そ、総司せんぱい……っ」
不安に震えるか細い声は沖田の嗜虐心を煽ったらしく、沖田は緑の瞳を楽しげに細めて、熱にうかされたように囁いた。
「千鶴ちゃん可愛い…… やっぱり可愛い担当は君だよ……」
彼女のうなじからわずかに唇を離して、沖田は小さく息を吐く。彼の熱い吐息が首筋にかかり、千鶴もまた当人の意思とは別に、身体の奥の欲望が目覚め始めてしまう。
彼女のうなじにかかるおくれ毛を優しく払い、沖田は自分がつけた歯形に舌を這わせ始めた。
その瞳に宿るのは獲物を狩る獣のような危うい光だ。瞳の奥に燻る熱、何かに酔ったような物言い、沖田はこの状況にすっかり興奮してる様子だった。
先ほどの動物好きの彼女のために、猫の鳴き真似を披露していたほのぼのとした空気は、すっかり雲散霧消していた。
確実に仕留めるために相手の急所を正確に狙う容赦のなさ。高校時代、千鶴とお付き合いする前は勝利に異常に執着し、得意の剣道ではラフプレーすれすれの激しい戦いぶりで大会でも勝ち上がってきた彼。
決め技の突きでは何人もの失神者を出して、部内の相掛かり稽古の荒っぽさも有名で。日頃いくら飄々としていても、負けず嫌いで闘争心は強い方。
「っ…… そ、総司さん……」
「ん、その呼び方もいいよ……。してるときは先輩は禁止だからね」
「は、はい……」
「いいお返事 素直ないい子にはご褒美あげるよ ――大好きだにゃん、ご主人様」
「っ!」
出し抜けに沖田に猫語を使われて、千鶴は動揺してしまう。まさかこのタイミングでされるなんて思わない、文字通りの不意打ちだ。
「総司さん…… それは反則です……!」
「そう? よくわかんないけど…… 君が喜んでくれるなら、もうなんでもいいよ」
耳まで赤くする千鶴に沖田は小さく息を吐いて微笑むと、さっそく彼女の服を脱がそうとしてきた。
「……せっかくのコスプレだから僕は脱がないけど、君はちゃんと全部脱いでね?」
穏やかな口ぶりとは裏腹に、沖田の悪戯な利き手は着実に千鶴の衣服をはぎ取ってゆく。胸につけている下着のホックをあっという間に外されて、千鶴は羞恥に息をのんだ。
「っ……!」
窓の外にはまだ秋晴れの青空が広がっていて、室内も電気がついてて明るい。そんな中で生まれたままの姿になるのは気恥ずかしく、千鶴は沖田にあるお願いをした。
「そ、総司さん 電気を……」
「はいはい。でも、電気消しても普通に明るいと思うけどね」
軽口を叩きながらも、沖田は千鶴に言われた通りに消灯する。筋金入りのイジメっ子でも優しいところもある。意外にも千鶴の言うことは比較的聞いてくれるのだ。
電気は消されたものの室内はまだ薄明るい。彼の言った通りだったが、千鶴は多少なりとも安堵の息がつけたのだった。
「……君は全部脱いでるのに、僕は服着たままって、なんかドキドキするね」
密やかな含み笑いを漏らしつつ、沖田は黒の合皮の指なし手袋をしたまま、千鶴の素肌を愛撫していた。
「本当に君にいけないことをしてるみたいで…… ぞくぞくするよ」
「総司さん……」
ベッドの上にぺたりと座る彼女を、背後から抱き込むようにして慈しんでいる沖田に、千鶴は淫らな熱を帯びた囁きを返す。沖田はわずかに苦笑すると。
「でもまぁ、今日はコスプレだからね。僕まで脱いだら意味ないし…… ご主人様はどんなふう可愛がられたいのかにゃん?」
「っ! も、もう猫語はいいですよ。総司さん……!」
急に沖田に猫語を使われて、千鶴は動揺と羞恥に赤面する。
「あれっ、もういいの? さっきはあんなに喜んでたのに?」
わかりやすい反応を見せる千鶴を忍び笑いを漏らしながら揶揄して、沖田はさらに彼女を追い詰めてゆく。
「遠慮なんてしなくていいのに…… にゃん」
「……っ!」
猫の物真似を続けながらも、沖田は指なし手袋をした両手で千鶴の胸の膨らみを可愛がる。黒の皮手袋をした骨ばった大きな手が、千鶴の裸の乳房を形が変わるほどにしっかりと掴んで、むにむにと揉んでいた。
胸の突端が手袋の固い合皮に擦れて、千鶴は眉を寄せ心地よさそうな吐息を漏らす。
そのまま彼女の胸を優しく揉んでいると、沖田は千鶴が自分の手を見つめていることに気が付いた。男の手に興奮する女の子がいるのは知っていたけど、まさか千鶴もだったとは。ちょっと意外な気もしたけど、大好きな彼女が自分の身体に欲情してくれるなんて、これほど嬉しいことはない。
沖田は自分の手指の骨ばった筋や血管を、千鶴にさりげなく見せつけるようにして、彼女の膨らみを可愛がる。竹刀を握って激しい練習や試合を続けているのに、すっきりと綺麗な長い指は密かな自慢だ。顔とセットでよく褒められるパーツでもある。
(……そろそろ、いいよね)
呆けた様子で自分の手を見つめる千鶴に、沖田は声をかける。
「――女の子って、男の手結構好きだよね」
「っ! 総司さん……」
「千鶴ちゃんも、僕の手に見とれてた?」
見つめていたのに気づかれていた恥ずかしさからか、千鶴は耳まで赤くする。否定しないのは肯定で、千鶴の初々しい反応に沖田は喉を鳴らして笑うと。
「――ご主人様はわかりやすいにゃん」
「っ、総司さん……!」
「見たいなら好きなだけ見ててくれていいよ。こういうときでもないと、手なんて眺める機会ないだろうし。……ちゃんと見てて、僕の手が千鶴ちゃんの身体を可愛がってるところ」
そう口にして、沖田は充血して固くなった下腹部を彼女にぐっと押しつけた。
「……っ」
千鶴は小さく肩を震わせて俯く。明らかに動揺している様子だ。そんな彼女にますます気をよくした沖田は、彼女の脚の間に片手を差し入れた。