◆薄〇鬼NL小説◆

□【SSL土千】春に託す
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 愛しい人との素肌での触れ合いは偉大だ。ただ抱き合っているだけでも、ピリピリと張り詰めていた心が不思議なほど穏やかになってゆく。

 ここ数週間一緒に過ごせなかった時間を埋めるような、癒しのひとときだ。

 土方は千鶴をまるで慈しむかのように抱きながら、これまでの自分自身を振り返る。これまで全てを仕事に捧げてきた自分が、こんなにも優しくて温かな幸せを手にできるなんて、思ってもみなかった。人並みの幸福なんて自分は手にできないと思っていたのに……。

 不器用な自分はつい何事も一人で抱え込んで無理をしてしまいがちだけど、彼女の存在が支えになっているから、忙しい毎日でもやっていけていた。

「千鶴、愛してる…… ずっと俺のそばにいてくれ……」

「もちろんです…… 歳三さん……」

 離したくない、離れたくない――。どちらともなく囁きあいながら、土方は千鶴との愛の営みに溺れてゆく。五年もの間、お互いを待ちづづけていたから。こうやって何の憂いもなく、心のままに抱き合えるのが幸せで仕方がない。

 土方にとって千鶴と過ごす毎日は、まるで長くて幸せな夢のようだった。永遠に醒めることのない。



 その後、全てを終えたあと。生まれたままの姿で眠る千鶴を見下ろしながら、土方はつぶやいた。

「……かなわねぇな、こいつには」

 ずっと抱えていた疲労も千鶴と愛し合ったら嘘のように癒えてしまった。 

 土方はベッドを抜け出すと、寝室のカーテンをわずかに開け、窓の外を見下ろした。そこにあったのは満開の桜並木だ。夜の闇の中を月の光に照らされて佇む桜は、幻想的なまでに美しかった。まるで別の世界に迷い込んだかのような、現実味のない光景。

 しかし、ベッドで幸せそうに寝息を立てている彼女の存在が、今このときが夢ではなく現実なのだと教えてくれる。……そう今は夢などではなく、夢のように幸せな現実の日々。そしてそれは、千鶴のおかげで手にできたもの。

 桜を見ると彼女のはにかんだ笑顔を思い出す。

『――桜が好きです、土方さんに似ていますから』

『――俺も好きだよ、お前に似合うからな』

 遙か昔、全ての戦いを終わらせてから交わしたやりとり。これを記憶にとどめているのがたとえ自分一人であっても、土方から千鶴への愛は変わらない。今までもこれからも、ずっと愛し続けるだろう。

 まがいものの鬼が本物の鬼となりそしてひとりの人間に戻るまで、ずっとそばにいて支え続けてくれた彼女に。

(千鶴……。今までもこれからもお前が俺の生きる理由だよ)

 春の月に優しく照らされる桜は、今日も幸せそうに咲いていた。

 桜花はやがて散ったとしても、土方の心に刻まれたこの景色は永遠に色あせることのない、この世でもっとも美しく幸福な光景だ。





END







以下あとがきあります







あとがき

お疲れ様です、作者です。
筆者初のひじちづでした、いかがでしたでしょうか。

頑張ったのですが結局あまり長くもならず甘くもならず
ヤマなしオチなしポエムみたいになってしまいましたが
少しでもお楽しみ頂けていたらうれしいです……。
しかし土方さん難しいですね!涙
2020年7月頃に一度書いて途中で挫折して数か月置いて、
その間に他のお話何本か書いてアップして、それでもまだ書けそうになかったので
途中だったものをとりあえず完成させてアップしてしまいました。
頑張ったのですが、結局ただのポエムのようなお話のままです。すみません……。
できればもう少しイチャイチャ描写やR18描写などを入れたかったのですが、
入れれませんでした……。土方さん難しいです涙

自分は2019年のお正月に薄桜鬼のゲームをプレイするまで、
所謂新選組ものを見たことがなく、新選組もののストーリーも全く知らなくて、
薄桜鬼の無印土方ルートを最初にやってものすごく衝撃を受けて
鳥羽伏見以降は号泣しながら飲まず食わず寝ずで何日もゲームをし続けて
(続きが気になりすぎて正月休みに寝る間を惜しんで全クリするまでゲームをしていました)
薄桜鬼の無印・随想録・黎明録を全キャラ全ルートを一気にコンプして
その後は遊戯録やらSSLなどの既発ソフトもほぼ全てプレイして
すっかり薄桜鬼と新選組が大好きになってしまいました。
その後は桜の時期に京都に聖地巡礼しに行ったり、
司馬さん浅田さん子母澤さんといった新選組もので有名な方の作品や
歴史の資料集を読み漁って学びながら楽しんでいました。
コロナ騒ぎが落ち着いたら五稜郭に桜を見に行きたいです。日野や会津も行きたいですね。
あと原田さんや沖田さんの聖地も……!

薄桜鬼はどの子もかっこよくて可愛くて、みんな大好きです。
どのキャラもどのルートもそれぞれに違った素晴らしさがありますよね。
その中でも薄桜鬼無印の土方ルートは、
オリジナルファンタジー要素や乙女ゲーム要素は確かにあるのですが、
浅〇次郎さんの壬生〇士伝(テーマは家族愛で主役は吉村さんという新選組隊士)を
武士道をテーマに土方さん主役で書き直しましたみたいな傑作だと思うので、
確かに乙女ゲームという括りではありますが、
若い女性に限らず一人でも多くの人にプレイしてもらいたい、奇跡のような作品だと思っています。
史実や他作品も含めて土方さんはとても格好いい人ですが、
その中でも薄桜鬼の土方さんはトップクラスにカッコよく描かれていますよね。
史実の嫌な面はガン無視で、薄桜鬼無印の新選組や土方さんは
「僕が考えた最高に格好よくて美しく切なく儚い新選組の土方歳三」を
体現していると思っています。本当に最高でした。

小説の後書きのはずが関係ない話題ですみません……。
しかも何が言いたいのかわからない、とりとめのない文章で恐縮です。
それではまた次回、お目にかかれましたら嬉しいです。
ご拝読ありがとうございました。
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