◆薄〇鬼NL小説◆

□【SSL原千】ENVY ME
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 そして、その夜のこと。

「……あの、左之助さん」

 原田の腕の中で、千鶴はかつてないほどに焦っていた。針のむしろの上に座らされていると言ってもいい。原田と一緒に夕食を食べて、別々にお風呂に入って、あとはもう眠るだけという状況の現在。

 LEDの明かりの灯る寝室のベッドの上にちょこんと座っている千鶴を、後ろから抱きしめている原田が、なぜかずっと一言の言葉も発さないまま、千鶴の髪のひとふさをつまみあげ、指先でもてあそんでいるのだ。

 くるくると巻きつけては解いたり、そんな生産性のないことを繰り返している。

 普段の原田は決してそんなことはしない。明らかに何か言いたげな彼の様子に、千鶴は生きた心地がしなかった。

 しかも原田が弄っている千鶴の髪は、数時間前に沖田に触れられていた場所でもあって。これはもしかしなくても、あのときのやりとりを見られていたのだろうか。

 今日の原田は珍しく仕事が早く片付いたらしく、ずいぶん早い時間に千鶴の家にやってきた。

 原田が千鶴の家に来たタイミングから言っても、あのとき彼が駅構内にいた可能性は充分にあった。

『――左之さんには内緒ね。僕まだ死にたくないし』

 別れ際の沖田のセリフが蘇り、千鶴の額を嫌な汗が伝う。

(……どうしよう)

 昔の先輩相手とはいえ、隙を見せてしまった自分が悪かったのだろうか。けれどまさかあんなことをされるなんて思っていなくて、でも……。

 ぐるぐると悩みながらも、千鶴はずっと黙り込んだままだった。申し開きをしようにも、何と言ってよいのかもわからない。

 というか、別に何か悪いことをしたわけでもないのに、なぜ自分がこんなおかしな後ろめたさや罪悪感を抱えてしまっているのだろう。これじゃあまるで――。

「……なぁ、千鶴」

「――っ! はい! 何ですか!?」

 ついに原田に声をかけられ、千鶴はうわずった声で返事をする。

「……おいおい、どうしたんだよ。何かやましいことでもあんのか?」

「やっ、やましいこと……!? 別にないですよ……!!」

 先ほど沖田にも全く同じ台詞を言われたのを思い出し、千鶴はますます動揺する。偶然にしては出来すぎているような。

 だけど単なるよくある言い回しのような気もして、千鶴はますます居たたまれなくなる。

 こんなことなら『見てたぜ? どういうことなんだありゃ』って、ストレートに怒られたほうがよほどマシだ。まさかこんな手段で怒りを伝えられるなんて。

(左之助さん……! 見てたなら見てたって、怒ってるなら怒ってるって言ってください……!)

 自分の腹部に回された原田の逞しい腕に両手を添えながら、状況に耐えられなくなった千鶴は心の中で叫んだ。

 しかし心中の叫びに返答などあるわけもなく、原田の腕は相変わらず千鶴の腹部に回されて、彼女の逃亡を阻んだまま。

「へえ、別にないんだな。やましいことは……」

 うっすらと揶揄の響きが込められたその言葉を口にするやいなや。

 原田は指先に絡めていた千鶴の髪のひとふさを自分の唇に触れさせて、千鶴を強引に自分の方に振り向かせると。彼女の前髪に自分の手のひらを重ねて、そっと唇を寄せてきた。

「っ……! 左之助さん……!」

 瞳を伏せて愛おしそうに、まるで慈しむかのように自分の手の甲に口づける原田の姿は、数時間前の沖田と寸分違わず重なって……。

「……っ!! 左之助さん、ごめんなさい!!」

 ついに耐えかねた千鶴は、叫ぶように謝罪の言葉を口にしていた。

「……駅前のあれ、見てたんですか」

 もう半泣きになりながら原田を見上げる千鶴に、ようやく彼は種明かしをする。

「まあな…… つーか総司の奴がわざわざ自慢しに電話してきやがって……」

 原田は少しだけ腹を立てているような様子で、蜂蜜色の瞳を眇めた。

 大人だからこんなことでいちいち怒ったりしないけど、やっぱりいい気はしないようだ。どうしようもない沖田の言動に千鶴は呆れる。

『死にたくないから左之さんには内緒』と口にしていたのは何だったのか。

「沖田先輩ってば、何考えて……」

「……つーかお前も他所の男につまみ食いなんてされてんじゃねぇ。しかも隠し立てなんざしやがって」

「すっ、すみません……」

「ったく…… 別に仕置きはしねぇが、その代わり今夜はいつも以上にカラダ張ってもらうからな」

「っ、左之助さん……! も、沖田先輩のバ……っ!」

「――おっと。その名前、今は聞きたくねぇな」

 その瞬間、千鶴の頬に原田の大きな手が添えられて。気がついたときには、もう唇が重ねられていた。

「……っ!!」

 千鶴は驚きに目を見張る。不意打ちの強引な口づけは原田の十八番だ。彼が唯一知っているという、女の子を黙らせる方法。

 容赦なく舌を入れられて、千鶴は唇だけでなく呼吸まで原田に奪われてしまう。いやらしい水音がするほどに深い口づけの甘さと酸素不足で、千鶴は軽い眩暈に襲われる。

 さすがにつらくて原田から逃れようとするものの、やはり逃がしてもらえずに。

 仕方なく千鶴は原田の口づけに応えた。口内で舌を絡めながら、遠慮がちに原田の腰あたりに手を回し、さらなる愛撫をせがむ。

 そんな彼女にようやく溜飲を下げたのか原田の拘束がにわかに緩まり、やがてどちらからともなく唇を離した。千鶴は生理的な涙で潤んだ瞳を原田に向けながら。

「あの…… 原田先生……」

「……左之助、だ」

「っ……!」

 もう何度目かのやり取りのあと。離された唇はまたすぐに重なり、原田は千鶴のトップスの裾から大きな手のひらを滑りこませてくる。相変わらずの手の早さだ。

 柔らかな素肌を原田に丹念に弄られながら、ついに観念した千鶴の脳裏によぎるのは、浅ましくも甘い期待だった。

 ヤキモチを妬いた彼にひどいことをされるというのも、これはこれでひとつの立派な乙女の夢で……。

「――よそ見してんじゃねぇよ。お前は俺だけ見てりゃいいんだ――」

 耳元で囁かれた憧れの台詞は、溶けそうなほどに甘く。他の男の子とのやりとりを責められて、釘を刺されているはずなのに、なんだかいつも以上にかわいがられて、愛されているような気がしてしまって。

(……左之助さんはずるい……)

 もう何度となく心の内でつぶやいた言葉を千鶴は改めて反芻する。こんなふうにどこまでも甘やかされてしまったら。

(本当に左之助さん以外、何も見えなくなっちゃいます……)

 気がつくと千鶴はベッドの上に押し倒されて、トップスのボタンを外されていた。きっと今日はこのまま最後までされてしまうんだろう。

 千鶴は行為を進めようとする原田にお願いをした。

「あの、左之助さん…… 電気消してくれませんか……?」

「……今日は駄目だ」

 千鶴のささやかな希望は、しかしあっさりと却下された。普段はちゃんと常夜灯にしてくれるのに。

「今夜はこのまま最後まで付き合ってもらうぜ? 千鶴」

 明るく点った室内灯を背に、原田はこれ以上ないほど楽しげな笑みを浮かべる。ニンマリとした、どこか子供っぽい……。

 けれど、そんなヤンチャな原田にすっかりやられてしまっている千鶴は、頬を淡く染めて彼の望み通りの答えを返した。

「……はい、わかりました……」

 消え入りそうな小さな囁き。しかしそんな千鶴の返答に、原田はもう何度目かの同じ台詞を返す。

「――よし、いい子だ」

 今宵もまた、かつての自分の担任教師に。千鶴は自身の全てを捧げたのだった。







End










あとがき


お疲れ様です。作者です。
約三年ぶりの全年齢の短編でした。
ここ数年ずっと数万文字のR18ばかりだったのですが
こういう数千文字の全年齢は↑と比べれば手早く書けて良いですね。
ネタさえおりてくればなんですが……。
面白くて萌える全年齢を書くのは自分にとっては本当に難しいのですが、
これからはこういう短い話を量産できるようになりたいです。
私生活がバタバタしていて、まとまった時間が取れない境遇なので……。

それはさておき、今回のお話です。
薄〇鬼はどのキャラもみんな大好きで、
最愛は原田さんなんですが沖田くんも大好きで、
あとは個人的なことなのですが、
男子キャラにヤキモチを妬かれるシチュも大好きで、
この二つを合体させた結果、今回のお話が出来上がりました。
冗談なのか本気なのかわからない沖田先輩に翻弄されて、
原田先生によそ見を注意されちゃいます。
原田先生のスイートで搦手なヤキモチをお楽しみ頂ければ幸いです。

史実の原田さんは短気が公式になっていますが、
薄〇鬼の原田さんは本編もSSLも短気の要素がほぼないですよね。
そしてとにかくスイートで大人でちょっとズルくて……。
なので今回のような怒られて釘を刺されているはずなのにとっても甘くて
今まで以上に原田さんしか見えなくなっちゃう……みたいなお話になりました。
原田さんに優しくされて溶かされて、それで二人溶け合って、
雨降って地固まるみたいな感じで、より強い絆で結ばれちゃうんですよね。

イメージは随想録の原田恋情想起七の
永倉さんと決別して宇都宮から江戸に向かう途中の、
キスのスチルの場面の最後です。
「そうきっと、鋼が溶け合って強くなるみたいに、
何があっても壊れない揺るぎない強い絆を、私たちは手に入れたんだ」
これ↑ですね。
二人溶け合って強くなるってスイートでいいですね。
とにかく甘い原田ルートらしくて素敵です。
『おい千鶴、さっきの見てたぜ? どういうことなんだありゃ』
とかってストレートに注意されて嫉妬されるのも嬉しいんですけど、
折角の原田ルートですものまずは甘やかされたいですよね(笑)


ちなみに今作の原田さんの個人的なお気に入りシーンは終盤の
沖田くんの名前を口にした千鶴ちゃんに
「おっと、その名前は今は聞きたくねぇな」って言って、
原田さんがキスするところです。
本編の原田流女子を黙らせる方法を実践できて満足しています(愛)
あとタイトルなんですが今回も思いつかなかったので
某ブランドの昔の香水よりお借りしています。

そして、最後に今回の素晴らしきゲストSSL沖田くん!
沖田くんも大好きなんですよ〜〜かっこいいですよね。
ちなみに髪の毛へのキスは思慕で、
額へのキスは友情・祝福の意なんだそうです。
こんなに思わせぶりなのに友情! SSL沖田くん小悪魔すぎますね!
(何言ってるんだ……というツッコミはなしでお願いします)
(今回はSSLらしく?逆ハーですので……!)
今回のお話の続きのさのちづエロとは別で、沖田くんのお話も書いてみたくなりました。
悪戯っ子で小悪魔でドSなかっこいい沖田くんの多分エロです!
時間とネタがあったら頑張ってみたいな!
薄桜鬼はどの子も最高にかっこいいですね。土方先生ももちろん大好きです。

短いお話なのに、あとがきが長い上にうるさくてすみません……。
ご拝読ありがとうございました。



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