短編

□彼なりの
1ページ/1ページ

※短編『おかしな彼女』の続きのようなもの。
というかヒロインの設定が同じです。

















終わった。

身動きが出来ない状態でナマエはそう悟った。
目の前に迫るヴィランにギュッと瞳を閉じて次に来るであろう痛みを想定して身構える。
しかしやってきたのは痛みではなく耳をつんざく程の爆発音だった。






「......」
「........」
二人の間に沈黙が流れる。
いつものナマエなら助けてくれた彼に対してしつこいくらい話しかけたりするが先程の恐怖がまだ残っていてそれどころではなかった。

街を散歩していたナマエは突然腕を掴まれたかと思うと人の居ないような狭い路地裏に連れてこられヴィランに襲われた。
もちろんナマエも個性で対抗したが相手の個性はこちらの動きを数秒間だが封じることの出来るもので、身動きが出来ない状態にされたナマエはそれこそ死を覚悟した。
その時、本当に運良く、奇跡かと思うタイミングでその路地裏横を通った爆豪勝己がその瞬間を目撃したために助けられた。
爆破でヴィランを飛ばしたすきに爆豪はなまえの腕を掴み街中まで走った。爆発音で騒ぎを聞きつけたヒーローたちが後始末をしてくれた、という訳だ。

未だ俯いているナマエに痺れを切らした爆豪がチッと舌打ちをする。
「....おい変態、てめぇの家どこだよ」
そう言われてしばらく言葉の意味が理解出来なかったナマエが頭にはてなを浮かべていると爆豪が送ってやるつってんだよクソが、とイライラした様子で言った。
爆豪くんが優しい、そうナマエが言えばうるせぇ黙れ、と爆豪お得意の暴言で返された。
「つーかてめぇが静かなのクソ気持ちわりぃな」
「...ごめん....」
家こっち、ゆっくり歩き出したナマエの後を爆豪もゆっくりとついて行った。



家までの間、2人は終始無言でただ歩くだけだった。
途中、ナマエが殺されかけたときを思い出して震える手を隠すように歩いた。後ろから爆豪が付いてきてくれているということも忘れて1人でぐるぐる考え込む度に爆豪がなまえの背中を殴って意識をこちらに戻してくれた。
やっぱり優しいなぁ。ナマエはそんな彼に頬が緩んだ。

「爆豪くん、今日はほんとうにどうもありがとう」
今度何か奢るから。そう言いかけて、しかしそれは彼がすぐ目の前まで迫ってきたことにより途切れた。
「ぶっさいくな顔だな」
至近距離で顔をじっと見つめられ、そう言い放つ爆豪。
しかしナマエは今は言われた言葉など耳に入って来なかった。
え、とかう、とか言葉にならない声を出していると彼は彼女から離れて不機嫌そうな顔で言う。
「なんで泣いてんだよテメェは。あ?
あんだけ俺がいじめてやっても泣かねぇくせにあんなことくれぇで泣いてんじゃねぇよクソが」
爆豪のその言葉をナマエは上手く理解出来ずに頭の中でうーん、と考えていたが、突然ガッと頬を殴られた。
あまりに突然で何が起きたか分からなくて、いつもなら爆豪くんに殴られたと喜んだが今はただ混乱するばかりだった。
「え、.....?」
「テメェもヒーロー志望ならあんくらいで泣いてんじゃねぇぞ...。柄でもねぇくせにいつまでもビクビクしやがって...見てて気分悪りぃんだよ!!」
優しさだと思った。彼はナマエに喝を入れてくれたのだ。
ナマエは爆豪の不器用な優しさを愛おしいとおもって殴られた頬を撫でた。
「えへへ...爆豪くんに殴られた」
そう言って笑えば変態女、と罵られたが彼のおかげでいつも通りに戻ったナマエにはやはりご褒美でしかなかった。
「爆豪くん、ありがとう!」
「きめぇ」
「お礼言っただけなのに何で!?ていうかもっと言って!」
「だあーー!!近寄ってくんじゃねぇ!!」
「えー、いいじゃんいいじゃん!」
よくねぇ、寒気がすんだよ殺すぞ!!
ナマエの家の前では二人のそんなやり取りがしばらく続いた。











.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ