短編

□脈ありだったみたいだね、良かったね
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「上鳴、ミョウジ、おはよう!」
幼馴染みの上鳴電気と登校しているといきなり後ろから声をかけられ、ナマエの肩が跳ねた。
「っ!?」
「おー、おはよ!」
単に驚いて肩が跳ねた訳ではない。
ナマエの肩が跳ねた理由、それは声をかけてきた人物を好いているからだ。
ナマエが振り返ると、そこには切島鋭児朗が笑顔でよぉ、と片手を上げていた。
「ミョウジ、おはよう」
驚いて固まっていたナマエにもう一度彼が言う。今度は先程より近づいて目を見て。
ち、近い...。
それだけでナマエの体温がカッと上昇した。
「お、おはよう...切島くん」
不意打ち良くない....。
ナマエがそう心中で言っていると隣から吹き出すような笑いが聞こえてきて顔を向ける。
隣ではさっきまでのナマエと切島のやり取りを見ていた上鳴が可笑しそうに2人を見ていた。
この野郎....。
ナマエの切島への想いを幼馴染みの上鳴は知っていて、切島からの言動にこうしてナマエが狼狽えていると毎回この幼馴染みは楽しそうにニヤニヤ笑うのだ。
こっちは見せ物じゃないんだから、このアホ面。
いつだったか、爆豪が付けたあだ名でナマエは隣でニヤニヤしている幼馴染みを罵倒する。
「何笑ってんだよ、お前」
「いや、何でもねぇ....ふっ...」
あーおかしー、そう言いながら歩き出した上鳴に切島は意味が分からないという表情で見ていた。
覚えてろよアイツ。
ナマエは右拳を強く握った。
「気にしないで、切島くん。アイツ、頭おかしいから」
そう言えば切島はそうだな、と笑って答えた。
なんて眩しい笑顔なんだ。
ナマエはその笑顔を心の中でそっと拝む。
朝から幸せだなぁ。






「梅雨ちゃん、さっき相澤先生が探してたぜ」
昼休み、爆豪、瀬呂、上鳴と一緒に食堂に行っていた切島が教室に帰ってくるなり蛙水にそう言った。
「教えてくれてありがとう」
そう言って蛙水は教室を出て行く。
そんなやり取りを見ていたナマエが溜息を一つ漏らした。
「何、どうしたの」
それを隣で聞いた耳郎がナマエに問う。
どうせ切島のことだろ、とでも言う様な表情で。
「梅雨ちゃん、梅雨ちゃんって呼ばれてるのいいなって....」
名前呼びいいなって、そうナマエが言えば耳郎はあぁ、と言って笑った。
「なんだ、そんなことか」
「そんなことって....じろちゃんにはそうかもしれないけどさ〜....」
私にとっては結構大事な事なんだけどなぁ。
うぅ〜、と唸ってナマエが机に項垂れるとその頭にポンッと耳郎の手が優しく乗っかった。
「あたしに任せろって」
そんな頼もしい言葉にナマエの表情がぱぁっと明るくなる。
「お願いします!」
と、次に耳郎は男四人で固まって談笑している切島の名を呼んだ。
「切島、ちょっといい?」
そう言って耳郎が手招きすると切島はおう、と返事をしてナマエと耳郎の方へ向かって来た。
「え、ちょ、じろちゃん...!?」
「いいからいいから」
二人の元に切島が着くなり耳郎が言う。
「切島は何でこの子のこと名前で呼ばないの?」
あまりにも直接的に耳郎が聞いたのでそれを聞いたナマエは恥ずかしさで縮こまってしまった。
ここまで直球で聞くとは思わなかった....。切島くん変に思わないといいな。
「お前のことも名前で呼んでないじゃん」
「でも梅雨は名前呼びしてんじゃん」
それは読んでって言われたから、そう言う切島に耳郎がへぇ、とやけにわざとらしく言って笑った。
やばい、逃げたい。
「この子もそう言ってるんだよね。だからこれからは名前で呼んであげて」
自分が耳郎にお願いしたとはいえ、ここまで直接「名前で呼んでください」と想い人に言っていると、実際言っているのは耳郎だが、その場から逃げ出したい衝動に駆られた。
恥ずかしさで体温が上昇していくのが自分でも分かって顔が赤くなっていくのを隠すようにナマエは俯いた。
「そうだったんか」
切島がこちらを向いたのが雰囲気で分かり、ナマエの心臓がドキドキと活発に動き始める。
そこから少しの沈黙が流れて切島がナマエの方に一歩近づく。
「.....ナマエ」
限界だった。嬉しさと恥ずかしさで叫びながら逃げ出したい気分だったが肩に置かれた耳郎の手がそうはさせないと言っているのでナマエはぶるぶると必死に耐えるだけしか出来ずにいた。
そんな彼女を知ってか知らずか、おそらく前者だろうが、耳郎が面白そうに今のナマエにとっては鬼とも思えるような提案をした。
「アンタもお返しに名前で呼びなよ、切島のこと」
「っ!?」
無理、無理無理...恥ずかしい無理出来ない。
そんな思いを込めて耳郎に縋るが彼女は笑っているだけだった。
早く呼んであげないと切島がここに突っ立ったままだよ、耳郎にそう言われてそれも申し訳ないと思い、覚悟を決める。
ナマエはバンッと机に手をついてガタッと椅子から立ち上がり、意を決して切島を見ながら鋭児朗くん、と言った。直後、ナマエはダッと走り出して教室を出て行ってしまった。
「は!?」
あまりにも突然で耳郎は呼び止めることも出来ずに彼女を見送るしかなかった。
「どこ行ったんだろあの子....」
ねぇ切島、耳郎がそう言って彼の方に顔を向けるとそこには耳まで赤くした切島が片手で顔を覆っていた。さっきまで普通にナマエと話していたのに。
「アララ....」
すると、先ほどまで静かだった教室に上鳴や峰田、瀬呂のイチャついてんじゃねぇ、という声や女子たちの黄色い声が飛び交った。
「ナマエをよろしくね、切島」
耳郎が未だ赤い顔を手で覆っている切島の肩にポンッと手を置いてそう言うと切島は小さい声でおう、と頷いたのだった。

まさかの両片想いだったと言う事実に耳郎はいつになったらくっつくかとひとり考える。
切島は男らしいから付き合うのにそんなに長くかからないとは思うけど。
耳郎は峰田たちにからかわれている顔の赤い切島を見てからナマエが出て行ったドアの方を見つめてふっと柔らかく微笑んだ。






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