短編

□溶けて潰れた
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「おはよう、ミョウジ!」

教室に入るなり私を迎えてくれたのは切島の笑顔だった。
私に向けてくれた笑顔、言葉、それだけで息が苦しくなって身体が熱くなる。心臓もドキドキとうるさい。
「おはよう」
ぎこちない笑顔でそう返すのが精一杯だった。
自分の席に向かいながら速る心臓をぎゅっと押さえつけてはぁっと息を吐いく。
眩しかった。かなり眩しかった。まるで太陽だ。
毎日挨拶を交わしてるはずなのに切島のあのキラキラした笑顔には慣れない。
それどころか日に日に心臓の動きが大きくなる一方で、彼に対しての気持ちも膨らむばかりだ。
「.....でも決めたんだ、伝えるって」
そうだ、私は今日の放課後に切島に告白をする。
彼には昨日のうちに今日の放課後に用事があるっていうことを伝えた。
緊張してよく眠れなかったけど脳内で何回も練習したから、大丈夫....大丈夫...。
自己暗示を繰り返して自分を落ち着かせる。
チラリ、と切島の方に目を向けると上鳴や瀬呂たちと楽しそうに談笑していた。
「........」
やっぱり素敵な笑顔だなぁ、と見つめているとこちらの視線に気づいた切島がニカッと笑ってヒラヒラと手を振ってくれた。
「あ......」
見ていたことに気づかれた恥ずかしさと笑って手を振ってくれた嬉しさと、二つの気持ちがごちゃごちゃになって私は固まるしかなかった。
ど、どうしよ.....。手、振り返した方がいいんだろうか...。
いや、でも...恥ずかしい。
ぐるぐる考えているとちょうどチャイムが鳴り、切島や上鳴たちも自分の席に戻っていく。
「あ〜....」
小さく唸る。
私は馬鹿か。なんで笑って手を振り返さなかったんだ。
絶対今の無視したって思われてるよ...。
告白するんだろ!?だったらそれくらい頑張れ私!!
自分で自分を叱咤して放課後の大事な決戦にむけて気持ちを入れ直す。










待ちに待った放課後、いや、本当は来てほしくなかった放課後の人の目の気にならない場所、屋上で私は彼を待っていた。
自分で待ち合わせ場所、つまり告白する場を屋上だと決めたはいいが来る時になって人が居たらどうしようと不安になっていた。
しかし運良く今日は今ここに誰も居ない。いいタイミングだったようだ。
「....深呼吸....深呼吸しよう」
緊張で胃の中のものが出そうな気持ちをゆっくり息を吸ったり吐いたりして落ち着かせる。
実際は少しも落ち着いてなんかいない。
やばい....逃げたい。
そんな弱音を吐いていると、ドアの方からガチャっと音がして同時にごめんな、と声がした。
来た........!
「上鳴たちが着いてくるって煩くてさ、説得してたら少し遅れた...!」
「....上鳴たち、私が切島を呼び出した理由知ってるんだね」
そりゃ気づくか....。異性を放課後にこんな所に呼び出すなんて、告白の可能性が高い。というか、ほぼそれしかない。
説得してくれたってことは切島も私が自分を呼び出した理由に気づいてるんだろう。
だめだ、恥ずかしくなってきた。帰りたい。
「俺も、知ってるぞ。お前が俺をここに呼び出した理由」
「....だよね」
うん、そうですよね。
告白しようとした本人からそう言われて恥ずかしくならない人はいないだろう。
今から想いを伝えるぞって時にそんなこと言われたら逃げ出したくもなる。
無理。やっぱ辞めたい。
1人俯いてそんなことを考えていると切島が近づいた気配がして顔を上げる。
「ミョウジ」
「....っ!?」
先程よりも随分近くなった距離にますます逃げ出したくなったけれど、見つめられた視線を反らすことが出来ずにその場で固まった。
近い....。
「お前が今から言おうとしてること、俺から言わせてくれ!」
「え....」
一瞬何を言われているのか分からなかった。
私が言おうとしていること?
それって....、

「好きだ」

幻聴かと思った。
けど切島が続けてミョウジのことが好きだ、としっかり言ってくれたことできちんと耳に入ってきた。
どうやら幻聴なんかじゃなかったらしい。
「切島....」
彼の顔はみたことないくらい真っ赤で、その色のままあの太陽のような笑顔を浮かべるものだから、その熱い太陽に照らされて溶けてしまいそうになる。
「私、も....すき...」
やっとのおもいでそう伝えると彼は太陽の笑顔をより一層輝かせた。
「俺、今すっげー幸せ!!」


あまりの眩しさに目が潰れてしまいそうだ。









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