短編

□卒業前にキミに言いたい
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好きな人がいる。

雄英のヒーロー科に入学して一目惚れしてから今まで3年間ずっとその人が好きだ。
最初は一目惚れだった訳だけど、彼を見ているととにかく優しくて男気溢れる人だと分かった。
あの爆豪に自分から絡みに行き、友達だと騒いだり、当初友達を作るのが苦手だった私に気さくに話しかけてくれたり。
とにかく本当に優しかった。
そんな彼の性格とあの明るい笑顔に私は日に日に想いを募らせていった訳なのだ。
今ではすっかり切島とはとても仲の良い友達になった。そう、友達に。

卒業を明後日に控えた下校時にいつも通り隣を歩く彼をそっと盗み見る。
そういえば3年間で身長伸びたな、とか今日もかっこいいな、とか考えていたら視線を感じたのか切島と目が合ってしまい思わずうあ、と声が出た。
「うあって何だよ!? 」
「いや、何でもないけど」
そう笑って誤魔化す私に切島は本当か、と疑いの眼差しを向けるがすぐに前を向いた。
そのことにホッとしているといつもの口調と変わりない様子で切島が言う。

「俺、好きなやついんだけどさ」

頭をトンカチで殴られた様な衝撃。
心臓を引っこ抜かれた様な衝撃。
「え、.....」
そう返すのが精一杯でその後は言葉を紡げなかった。
私の歩みが止まったので自然と切島も歩みを止め、2人で道端につっ立っている。
目線を上げて切島の顔を見るとほんのりと頬を赤く染めて笑っていた。
その『好きな人』を思い出しているであろう彼の表情をみて失恋した、私はそう思った。
知らなかった切島に好きな人が居たなんて。
もし、私が早く告白でもしておけば良かったのだろうか。
いつからその人のこと好きなんだろう。
そんなこと1度も言わなかったのになんで今更?
言いたいことがいくつも出てきて、それを本人に聞ける勇気もない。
やばい、泣く。
そう思ったとき、また切島が口を開いた。
「そいつのこと1年の時から好きなんだけどさ、ホラ、俺らもうすぐ卒業じゃん?」
だから告った方がいいのかなって思ってさ、照れた笑いを浮かべながらそう話す切島にショックもあるけどイラっとした。
「...誰も何も聞いてないのに話さなくていいから」
興味ないし、そう口にした自分に我ながら冷たいとはおもった。
「そんなこと言うなよ...!」
いつもの冗談を言い合うようなノリで切島は返してくる。私の気持ちなんか知らずに。
1年の時から好きなら何でもっと早く相談してくれなかったのか。私たちは友達じゃなかったの?
そしたらもっと早くに諦められてたのに。
「なぁなぁ、告った方がいいと思うか?」
またそんなことを言ってくる目の前のこいつにイライラが増す。
「だから!興味ないって言ってるじゃん!」
勝手にすればいいでしょ、そう声を荒らげる私に切島は少し驚いた様子だったけど直ぐにうーん、と考え込んだ。
はぁ!?こいつほんと何なの!会話が成立してないじゃないか。
何を考えてるのか知らないけど、知りたくもないけど、こっちは失恋したばっかなんだから早く帰らせて欲しい。思いっきり泣かせてほしい。
いや、もうなんかムカついてるから泣く気も起きないけど。
「もう帰る!」
そう言い放って家までダッシュした。後ろでおい、と呼び止める声が聞こえたけど無視して走った。






「おはよう...」
「おはよう...ってなにそのひどい顔」
隣の席の響香ちゃんに挨拶をすると私の顔をみて心配してくれた。
「うん、ちょっとね」
切島関連か、彼女はそうため息をついてから私の席のすぐ隣まで椅子を持ってきて話を聞いてくれる体勢に入っていた。
ありがとう響香ちゃん。

あの時、泣く気も起きないと思っていたけれどやっぱり3年間好きだった分の想いはそれなりにある訳で、家に帰ってベッドに寝転がると悔しいやら悲しいやら色んな感情で涙が止まらなかった。
寝る前も起きてからも自然に涙が出てきて私の中の水分はもうないんじゃないかというくらいに泣いた。


「っていうことで....」
昨日のことを全部話終えると響香ちゃんが呆れた顔をしていた。
何でそんな顔をしてるのか。
彼女はまたため息をついた。
「あんた、それさ....」
そう響香ちゃんが言ったところではよー、とあいつの声が教室に響いた。
切島じゃん、響香ちゃんがそう言ったのにうん、とだけ返して彼を見る。
すると切島は自分の席に向かうのではなく私の席に向かって歩いてきている。
え、なに....。何でこっち来んの...。
私と響香ちゃんがこちらに向かってくる切島を見つめていると、私の目の前まで来た切島が机に手を置いて少し前傾になりながら声を張り上げた。
「ミョウジ!!」
「え、」
「俺と付き合ってくれ!!!!」
シーン。
静まり返る教室。しかし誰かの告白だ、の声で直ぐに色めきだった。
私の頭は何が起きたのか理解出来ない。
「いや......え、」
何を言ってるんだ?切島は好きな人がいるんじゃなかったっけ?
混乱する私を置いて切島は紅くした顔でまた喋り出す。
「ミョウジのことが好きだ!!」
嘘だ...。だって今まで1度もそんな...。
「...昨日、言ってた子は...?」
やっとの思いでそう聞くと切島はあれはお前のことだとますます顔を紅くして笑った。
夢かもしれない。
そう考えた私は隣にいる彼女を呼んだ。
「響香ちゃん、私の頬を抓って...」
「えー...。そんなの切島にやってもらいなよ。
切島、この子のほっぺ抓ってあげて」
「お?おう...」
ゆっくり切島の手が近づいてきたところではっと我に返った私はガタッと勢いよく立ち上がる。
「な、何すんの....」
「いや、耳郎が」
二人して顔を真っ赤にした私たちを見かねて響香ちゃんが言い放った。
「イチャつくのはいいけどよそでやってね」
あとナマエも早く返事してあげなね、響香ちゃんが自分の席に着きながら言う。
自分が切島に言ったのにそんな邪険にしないで。
その直後、チャイムが鳴りHRの始まりを告げた。
そのことに助かったとホッとしていると去り際に切島が言う。
「休み時間に返事もらうからな」
珍しく笑っていない彼の真剣な表情にときめいた私は小さな声ではい、と言うことしか出来なかった。



卒業を明日に控えた教室では相澤先生が明日のことについて話し始めていたが私はそれどころじゃなく、先生の話が全く入ってこなかった。

全部切島が悪い。






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