4短編
□たとえば
1ページ/1ページ
たとえば、
俺が海賊ではなく海軍で、
お前が海軍ではなく海賊だったら。
世界はどれだけ変わっていたのだろう。
出会いは停泊中に立ち寄った酒屋で、その時のお前は小綺麗な格好で一人、カウンターで飲んでいた。
豪快な飲みっぷりとあっけらかんに笑うその姿に自然と足がむく。
空いていた隣の席に腰を下ろして、静かに彼女とマスターの話を聞いていればそれはそれは楽しそうで。
海や財宝、世界の事を楽しそうに話す彼女に興味をひかれた。しなやかに鍛えられた体にちらほら見える傷痕。こんなに嬉嬉として話すものだから女ながらも海賊なのだろうと独りでに推測していれば不意にかけられた声。
「不死鳥さんは、もっと素敵な世界を見てそうね」
グラスを傾け微笑む彼女にどきりとした。
「そうだねい。上から見る世界も捨てたもんじゃねぇよい」
俺の事に気付いていたのかと驚きつつも覗き込んでくる瞳に返せばまた光が宿る。
「素敵ね」
羨ましい、と返された言葉に小さな疑問をもつ。
「お前さんだって、見ようと思えば見れるだろうよい。空からは難しいかもしれねぇが」
海賊だろ?
どこの海賊船に乗ってんだよい。
連ねた言葉に彼女は眉を下げながら笑う。儚げに笑う彼女の瞳からは光は消え、ただただ困ったように笑うのだ。
「マスター、ごちそうさま。」
口を開いたかと思えば席を立ちカウンターへ金を置く。こちらの質問など答える気はないようだ。
何か怒らせてしまったのかと去ろうとする彼女へ声をかける。すると彼女は振り向いて一言だけ呟いたのだ。
周りの男客共の声に掻き消されたお前の一言は、何故だかはっきりと聞き取れた。
(自由になりたい)
その言葉の意味を知るのはこの数日後。お前は軍服をきて、肩にはそれなりの物が掲げられている。
俺の目の前に立ちはだかるお前は酒場でみた煌めくような光はなく、ただただ世界を見据えた目をしていた。
慣れたように剣を持ち、こちらへ歯を向けるお前は海軍。
海賊ではなく、海軍で
ー自由をお前にー
(欲しいものは奪えばいいんだよい)