赤い糸

□episode 0
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蓮二が急に引っ越すことになった事実と「引っ越すことになった」と言う彼の言葉が頭の中でリピートする。
リピートする度に止まらない涙を何回も手で拭いながら歩いていたら、いつの間にか自宅の前に着いていた。




「ただいま…」




いつも普通に開けている玄関のドアがこの時はとても重く感じた。
元気のない私の声にリビングからパタパタとやってきた母が驚いた様子で声をかける。


「結衣…?どうしたの!?」

そんな母の声を聞いて、着いた頃には一度引いていた私の涙がまた溢れ出てくる。でも、心配そうに見つめてくる母に頑張って伝えるために泣きたくなる声を押さえ、言葉を声に出す。


「ママ……れん、じ…ね…エウッ…明日…引っ越しちゃうんだって…ウッ……ヒックっ…いなくなっちゃうんだって……!!」


泣かないように我慢していた私の中の糸がプツンと切れ、母に抱きつきながら声を上げ泣き叫けんだ。

悲しい気持ちを。寂しい気持ちを全て吐き出す様に。

そんな私を優しく抱き止めて背中を擦ってくれる。



「蓮二くんのママからさっき連絡あった…。ママもびっくりしちゃったよ…。ママも蓮二くんのママに挨拶したいたから明日見送りに行こうと思うの。結衣も行くでしょ?」



母から「見送り」と言う言葉を聞いて思い出した。蓮二に「明日見送りに来てほしい」と言われたことを…。


そんなの出来る訳がない。だってもう、遊んだりする事も楽しく笑い合う事も出来なくなるのだから…。


想像するだけで胸は苦しくなる。私は母の背中にぎゅっと回していた手で母の洋服を握りながら答えた。



「でも…蓮二にバイバイなんて…出来ないよ…!!寂しいよ…」



涙が止まらない私の顔を見た後、母はぎゅっと抱き寄せて話を始めた。


「そうだよね。大事なお友達とバイバイは悲しいよね?でも、大事なお友達にバイバイをちゃんと言えなかったって事の方が後から辛くなっちゃうのよ?だから、結衣も明日ちゃんと蓮二くんにバイバイ言いに行こう?ね?」



蓮二との別れをずっと拒んでいた私の脳内は母の言葉により、ちゃんと顔を見て笑ってバイバイしよう。という思考に変わっていった。

そうだよね。ずっと暗い顔してても蓮二も喜ばないよね。後悔をしない為に…ちゃんと「さよなら、今までありがとう」を伝えよう。




「うん…わかった…!」



「よしよし。あ、そうだ!結衣。ママ引っ越し祝いに蓮二くんのママにプレゼント渡すんだけど、結衣も蓮二くんに何か作ってプレゼントを渡そうよ!何が良いかしら?」



母は抱きしめていた私を少し離し、目を見てにこやかに微笑みながら私に言ってきた。

プレゼントか…何が良いんだろう。蓮二は何をあげたら喜んでくれるのかな……。いろいろ悩んだ末に思い付いた私は母の耳に口を寄せて内緒話をするように伝えた。



「ママ!あのね…」
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