赤い糸

□episode 5
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階段を上がり、少し進んだ場所にある図書室の扉を静に開ける。中に入ると人の姿はなく、窓から入ってくる優しい風がカーテンを揺らし、擦れる音だけが響いていた。


「はぁ…。何やってるんだろう私…」



トボトボと歩きながら中央にある長机に持っていた本を置き、椅子に腰掛けながらため息混じりに言葉を落とす。その本を読むわけでもなく、ただページを片手でパラパラとめくりながらさっきの事を考えていた。
夏海を置いて走ってここまで来てしまったし、柳先輩にもちゃんと顔見て挨拶して来なかったな…。普通に考えれば失礼な行動だよね。さっきの事を思い出すだけで自分に嫌気がさしてくる。



まだ、テニスコートにいるかな…。夏海にちゃんと謝らなきゃ。あと、柳先輩にも。でも、柳先輩の顔をちゃんと見れるかな…私…。



開いていた本を閉じ、テニスコートが見える窓際に向かう。そこから見下ろしてみるが、数人帰る姿が見えるだけであって夏海達の姿はなかった。 どうしようかと数秒間コートを見つめながらその場に立ち尽くしていると一瞬だけ強い風が窓に向かって入ってくる。その風により、ハッと我に返った私は少し乱れた横髪を片手で耳にかけながらそっと窓を閉める。そして、本を片付けようと長机に目をやるけれど、置いたはずの本が見当たらない事に気づく。



「…あれ?おかしいな…。ここに置いといた筈なのに…。」



自分の座っていた場所や机の下を隈無く探すが本らしき物はない。誰かが片づけた?と一瞬考えたが、この部屋には人の気配はなかったはず…。でも、本がなくなったのは事実。探している内に時間が経ったのか、窓に目をやると茜色の夕日が消えてしまいそうな程まで落ちていて、室内に差し込む光が弱くなりつつあった。薄暗くなった学校というものは不気味な雰囲気を醸し出す。微かな音でさえも敏感に感じるほど私はこの状況に少なからず恐怖心を抱いていた。でも今は怖がっている場合ではない。本を探さないと。もう一度部屋を探してみる事にした私は本棚の方へと歩き出す。だけど、一歩を踏み出したその瞬間、後ろから突然声をかけられたのだ。



「…探し物はこれか?」


「…ッ!?キャーーっ!!」



声をかけられただけなのに恐怖心からか、私は心臓が飛び出しそうなほど驚き、悲鳴をあげてしまう。そして、腰が抜けてしまったのかその場に崩れ落ちた。立ち上がらなければと足に力を入れようとするが石の様に全く動かない。人は恐怖心が募るとこんなにも動けないものなのかと改めて感じさせられた。逃げることが出来ない私は恐る恐る振り返る。すると、そこには驚きの表情を浮かべつつも困惑に満ちた顔で私を見下ろす柳先輩の姿があった。



「…すまない。驚かせるつもりはなかったのだが…。」


「…へ?や、柳先輩…!?」
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