赤い糸

□episode 4
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「…結衣どうかした?すごい顔してるよ?」


「ご、ごめん!…何でもないよ!えっと…あ、あの人がそうなんだー。」



名前を聞いた後から動揺を隠しきれず棒読みで返事をする。そんな私の様子を見た夏海はその動揺を見逃すわけもなく、案の定問い詰めてきた。



「いや、絶対何か隠してるでしょ〜?私の目は誤魔化せないんだからね?あ、もしかして柳先輩ともう知り合いだったりして!?」



ニヤニヤしながら迫る彼女。冗談のつもりで言ったのだろうけど、鋭いところを突いてくる。まだ確定した訳ではないし、幼馴染みの相手かもという話は伏せておく事にした。



「知り合いというか…この前、図書室でちょっとアクシデントがあって…それを助けて貰ったんだ。」


「え!?柳先輩と話したの!?しかも助けて貰ったとか、いったい何を助けて貰ったの!?羨ましすぎるよー!後で詳しく教えてよね!」




羨ましいって…ただ、倒れそうな所を助けて貰っただけだし、羨ましい所か私は恥ずかしさでいっぱいだったっての…。



「あ!試合開始みたいだよ!」




彼女の顔から目線をコートに移すと二人は既に構えの姿勢に入っており、静まり返るコートから聞こえるのはトントンと一定のリズムを刻むボールの音だけ。観戦に来ている女子達も試合が始まるまでは静かにコートを見つめている。
サービスは赤也くんから。沈黙を破るようにボールとラケットを構えながら言葉を発する。



「んじゃ、遠慮なく行かせてもらうッスよ?」



テニスボールを空に向かって放ち、そこから打たれた球は相手コートに向かって勢いよく一直線に飛ぶ。試合開始だ。同時に女子達からも一気に歓声が上がる。赤也くんは最初から飛ばしている様で、どんどん点を決めていく。一方、蓮二と思われる人物“柳先輩”は球は返すもの必死に追い付いて返している感じでもない。わざと球を見送り点を取らせている様にも見える。そして、最初の1ゲームは赤也くんがリード。


「柳先輩!もっと本気でやって下さいよ。それとも…腕が落ちただけッスか?」


余裕を見せつけて、更に挑発までする赤也くん。実際にこんな後輩がいたら苛ついてしまうのが普通だけど、そんな彼の態度にも柳先輩は動じず、無言でコートの後ろ側に移動し、サーブの構えに入る。



「…聞いてるんスか!?柳先輩!」



返事のない柳先輩に苛立ちを見せる赤也くんだけど、彼の言葉を制するように柳先輩が静かに答える。


「その言葉、そのままお前に返してやろう。赤也。お前こそ、この程度か?もっと本気で来い。」


「…!?。なっ…!」


「来ないのならば…こちらから行くぞ。」


さっきまで余裕の笑みを浮かべてた赤也くんの顔が焦りの表情へと変わる。そして次の瞬間、ライン上へ正確に落ちる強烈なサーブが赤也くんの真横抜けていった。それからというもの試合の流れは一変し、柳先輩の返す打球に赤也くんが追い付けず、ついにマッチポイントを迎え6-1で柳先輩の圧勝で終わった。



『Game won by 柳!6-1。』




ゲームセットのコールがかかるとまたもや周りの女子達が騒ぎ始める。
騒ぎ始めたのは彼女達だけではなく私の隣の人物も同じ。





「キャー!柳先輩カッコいいー!!」


「……あれ?夏海は幸村先輩じゃなかったのー?」


「幸村先輩はもちろんだけど、冷静沈着で落ち着いた雰囲気の柳先輩も素敵なのよ!結衣も今日の試合見てテニス部カッコいいって思ったでしょ!?ね!?」


半ば強制的に同意を求められる気がしたので一応「うんうん」と首を縦に振って見せる。



「それにしても、赤也くん周りの先輩達を寄せ付けないくらい強かったのに、柳先輩には全く歯が立たなかったって感じだね。」


「うん。赤也も相当強いけど、アイツには…まだ越える事が出来ない壁。それが、3強と呼ばれる先輩達なのよね。」


さっきまで声が枯れそうな程声を出して騒いでいた夏海だったけど、悔しそうにその場に立ち尽くす赤也くんを見つめ静かに語る。

そんな赤也くんの様子を見ていたもう一人の人物、柳先輩も彼の側まで歩みより手を差し伸べて何かを話している。ここからでは話が聞こえない。でも、赤也くんはふて腐れた顔をしつつも柳先輩の笑む表情を見て握手を交わし、少し嬉そうに笑っていた。
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