赤い糸

□episode 0
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「結衣…。お前に伝えなければならない事がある…。」

「ん?何?」

「俺は………引っ越すことになった。」








それは……
私が当時小学4年の夏の事でした。









突然、突き付けられた言葉に私の頭の中は真っ白なり、言葉すら出てこなかった。少し考えてから恐る恐る返事を返すが、言いかけている途中で少年の言葉に遮られる。


「な、なん…「なんで引っ越すの?…と、お前は言う」」


「う、うん…。その通りだよ…蓮二。何でいつも解っちゃうの?」


「フッ…お前の事はデータを持ってすれば容易い事だ。まぁ、言いそうな事くらいはデータを使わずとも解るが。」



大人びた口調で、目を閉じながら微笑む少年。そう。彼の名前は柳蓮二。私より少し身長が高く、綺麗に切り揃えられた前髪とサラサラのおかっぱ頭が特徴的。年は私の1つ上で小学5年生。家も斜め向かい側と近かった為、面倒見の良い蓮二は幼い頃から私と良く遊んでくれていた。


そして、テニススクールに通う蓮二は親友と呼んでいる乾くんって子とダブルスを組んでいて、ジュニアの世界ではちょっとした有名人らしい。


小学生にしながら多忙な日々を過ごしている蓮二だけど、時間を見つけては私にテニスの話や、やり方も丁寧に教えてくれた。そのおかげでテニスの楽しさを知り、二人で遊ぶとなるとテニスをやる事が多くなっていった。彼にとってはお遊びにすぎない打ち合いでも私がやろうと言えば嫌な顔をせず、付き合ってくれた。


テニスだけでなく、優しい彼は私が泣いていたり、落ち込んでいる時は側にいて頭を撫でながらいつも励ましてくれる。1つしか違わないけど、一人っ子の私にとってはお兄ちゃんのような存在だった。



「それで、どうして引っ越しなの?いつ…いっちゃうの?」


「……。両親の都合でな。明日の10時にここを立つ。」


「明日…!?10時…そんな…いきなりすぎるよ…」



言いたいことや聞きたいこと山ほどあるけれど、自分なりに一番聞きたい事を必死に考え声に出す私に対し、顔色一つ変えず冷静に答えてくる蓮二。その時、私の胸にチクりと痛みが走る。

今にも涙が溢れそうな私は言葉を声にすることが出来ずにいた。そして、涙を浮かべた顔を見られないように俯いた瞬間、頭にポンと手を乗せられ「明日、見送りに来てほしい」と一言だけ残し、その場から彼は去っていった。





どうして、アナタはそんなに冷静でいられるの…?


私はこんなに……こんなに辛くて苦しいのに………
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