【short/他】

□一夜を共にした人は会社の上司でした
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『ん・・・』


目が覚めて視界に入ったのは見たことない天井。しばらくその天井をぼーっと見ていて、急にハッと我に返って起き上がった。同時に頭に鈍痛が走る。痛みのある頭で見渡すと、天井と同じ見たことない部屋や家具諸々。昨日の出来事を少しずつ思い出そうとするけど全く覚えていない。
隣でモゾモゾ動く気配があり、ゆっくりと振り返ると布団からわずかに見えるパーマのかかったような髪の毛。そーっと布団をめくると全身から血の気が引いた。クセのかかった髪の毛の主は、昨夜のバーで出会った、名前と三つ年上ということしか知らない松川さんだった。床を見ると、松川さんのスーツと私のものであろう服が散らばっていた。
ということはここは松川さんのお部屋!?そして裸!?あ、でもお互い下は履いてる・・・あぁ!でもでも、上は裸・・・!やってしまったぁあぁ!!
声にならない声で布団に顔を埋めて悶えていると、松川さんがむくりと起き上がった。


『・・・・・・』
「・・・・・・おはよ」
『あ、おはよう・・・ございます』


少しぼーっとしたながら私を見たあと微笑んで挨拶をされたから、つられて私も挨拶をした。
うん、と少し満足げに笑うと、頭を掻きながら部屋を出ていってしまった。私は何も言えずに彼の背中を見送っていた。


『・・・えっと、彼氏に振られてバーでやけ酒を呑んでて、松川さんと出会って、自宅が同じ進行方向にあるからってタクシーに乗ったのは覚えてる・・・で、その後どうした私・・・』


頭の中で悶々と考えているとドアが開き、松川さんが入ってきた。先程とは違って顔もスッキリしたようだった。


「ご飯は食べれる?ホットサンドで良ければ作るけど」
『え、いや、そこまでして頂くわけには・・・すぐ帰りますから』
「食べれるなら作るよ。二つ作るのも変わらないから。顔洗っといでよ」
『あ、はい・・・』


有無を言わさずに洗面所に案内される。
洗面所は白をメインとしていて綺麗に掃除されていた。洗面台に手を付き項垂れる。


『・・・ひっどい顔』


鏡を見て思わず声が出た。目元は腫れとメイクが落ちてひどい顔で、髪も寝起きなのかボサボサだった。
こんな姿を赤の他人の松川さんに見られたのかと思うと、恥ずかしいを通り越して女子力終わったと思った。これも誕生日にいきなりメールの1本だけで別れ話をしたアイツが悪いんだ!


『・・・あ、あれ、?』


鏡に映った私は泣いていた。


『なんで・・・』


最後は勝手な奴だったけど付き合ってる時は良い奴だった。イベント事が好きで色んな所へも行った。
もう吹っ切れた思ったのにまだ心のどこかでは未練があるのかもしれない。


「△さん」
『・・・・・・!』


洗面所のドア付近で松川さんは寄りかかってこちらを見ていた。


「ご飯できたよ」
『あ、ありがとうございます』
「うん」


それだけ伝えて松川さんは戻って行った。見られてない、よね・・・?
今度こそ顔を洗って、飛んだ水を備え付けのテッシュで拭かせてもらって洗面所を後にした。




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