【short/他】

□胸ポケットの神様
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『失恋しました・・・』

先日、会社の先輩が結婚した。
失恋と言っても私の一方的な片思いで、相手は私の気持ちを知るどころか、単なる後輩しか見ていないだろう。
相手は会社の受付嬢。とにかく美人。先輩の一目惚れらしく、最初は流されていたけど積極的にアタックしてようやくお付き合いしたんだとか。
惚気話を聞かされていた私は悲しみを抑えるのに精一杯だった。

「そうか・・・」

そう言って、煮物が入ったお皿をコトンと私の前に置く。染み込んだ味が身体にも染み込んでいくようで、悲しい気持ちが少し和んだ気がした。
松川さんは同じ部署の先輩で、私が失恋した先輩とは同期入社。仲も良くてプライベートでもよく呑んでたらしい。私が先輩を好きなのも知っていた。

「俺もね、失恋したことあるんだよね」

正直驚いた。松川さんは優しくて、悩みとかがあれば相談に乗ってくれて、人付き合いもいい。おまけに背が高くてカッコイイ。こんな素敵な人を振る人などいるのだろうか。

『松川さんでも失恋することあるんですね』
「うん。自分からはあまり行かないからね。だからいつの間にか失恋してたり」
『はは・・・、今の私と同じじゃないですか』
「だから俺って酷い奴だなと思う」
『え・・・?』
「△がアイツと付き合わなくて良かったと思ってる」

松川さんが顔を上げて視線を合わせる。その真剣な視線にどくんっと心臓が音を立て始めた。

「初めて会った時から好きだった」

テーブルに置かれている手に松川さんの手が重なる。
大きくて骨ばってゴツゴツしてる男の人らしい手にますます心臓の音が早くて大きくなってくる。それを隠すように、重ねられていない方の手で自分の胸元を抑える。手にも伝わるくらい激しく動いていた。

「今すぐじゃなくていいから・・・少しずつでいいから・・・俺のこと好きになって」

失恋の悲しみはすぐには忘れられない。もしかしたら1週間、1ヶ月、もしくは1年かかるかもしれない。けど、目の前にある新しい恋に歩んで行っても悪い事なんて無いのかもしれない。
松川さんと同じ気持ちになるまであともう少し・・・。

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