【short/他】
□指先から恋が始まる
1ページ/1ページ
『ただいま〜』
誰もいない部屋に消えていく声。
溜息をつき、服を脱ぐのも億劫でそのままベットへ飛び込んだ。
ベットだけが疲れた私の身体を癒してくれる。
朝起きて、ごはん食べて、出勤して、仕事してまたごはん食べて、仕事して、ご飯食べて、帰って寝て・・・そんな生活を毎日繰り返している。
時々何の為に仕事しているのか分からなくなる。
そりゃ生きる為なんだろうけど、こんな平凡な生活してて果たして私の人生楽しいのだろうか。もっと他にやりたい事があるんじゃないのか。
けど、それが何か分からないから結局はまたいつもの生活に戻っちゃうんだなぁ・・・。
「大分お疲れだな」
一静が背中をポンポンしてくれる。彼の大きくて優しい手が凄く好きだった。
疲れていてもこれがあれば忘れられるほど彼の背中ポンポン効果は大きかった。
『ごめんね、久々のデートなのに愚痴っちゃって・・・』
「気にすんなよ。お互い忙しい中で会えるだけで充分。聞いてスッキリするならいくらでも聞いてやる」
『一静〜ありがとう!!』
泣きそうになりながら一静に抱きつく。
「ところで」
『ん?』
一静の胸に埋めている顔を上げて彼を見上げる。
「そんなに平凡な毎日なら、これから1秒でも早く帰りたくなるような家に住みませんか?」
『え?』
一静に手を取られ、掌に何かが置かれた。
『まさか、これって・・・』
「▲には、おかえりと言ってもらえる人が必要だな」
今度は本当に涙が溢れてしまい、ガラにもなく大の大人が泣いてしまった。
一静に頭ポンポンされながら手の中にある鍵を力強く握りしめた。