【short/他】

□息も止まるくらいに
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『あ、可愛いー』

放課後デートの帰り道。ショーウィンドウに飾られているピアスに足を止める。隣を歩いていた一静も立ち止まって私の頭上から覗きこんだ。

「どれ?」
『あれ』

私が指さしたのは水色とクリアのラインストーンが付いたピアス。

「水色とか好きだったっけ?」
『好きだよ。それに水色と白ってなんだか青城バレー部みたいじゃん?』
「・・・・・・」
『買っちゃおうかなー』

お財布の中身を思い出す。バイト代も入ったし値段も高くはない。

『でも買わないで後悔するなら買った方がいいよね。ねぇ、いっせ・・・あれ?一静?』

一静にも意見を聞こうと思ったらいつの間にかいなくなっていた。辺りを見回しても見当たらない。先に帰るはずはないから、携帯を鳴らそうと鞄を漁っていると、一静がピアスを見ていたショーウィンドウのお店から出てきた。手には袋を持っていた。

「はい」

一静が差し出した袋を受け取り中身を開けるとそこには見ていたピアスがあった。

『え、買ってきてくれたの?』
「うん」
『でもなんで、』
「バレー部みたいって言われて嬉しかったからかな。好きだって言ってもらったみたいで」
『そうなんだ』
「うん」

確かにバレー部も好き。だけど白と水色カラーのユニフォームを着てコートの中で試合をしている一静を見るのはもっと好きだった。背番号2番を背負う彼の姿が誇らしかった。大きな背中が頼もしかった。
さり気ない彼の優しさに愛しさがこみ上げ、彼の広い胸に飛び込んだ。勢い良く飛び込んだのに彼はびくともしなかった。

『・・・ありがとう、一静。嬉しい』
「おう」

一静の撫でてくれる手は優しいてをしていた。

『でも私、ピアス穴開いてないよ?』
「開けちゃえば?そう思って一緒に入ってる」

袋の底にはピアッサーも入っていた。準備万端だな。



一静のお部屋にお邪魔してピアスを開けてもらうことになった。あぐらをして座っている一静に横を向いて座る。

『え、な、に』

一静の手が耳に触れて髪を耳にかけられる。急にされたからびっくりしてしまった。

「なにって、耳に髪の毛かけないと開けられないだろ?」

そう言ってペンのキャップを外した一静の手が再び耳に触れた。正確に開けられるようペン先で耳たぶにマークを付けるのだ。
チョットマッテ。この距離すごく近くないですか・・・っ!?一静の息遣いがよく聞こえる・・・って私は変態か!!
普段通りなのに、いざ意識すると急に動機が激しくなる。チラッと横を見ると一静はピアッサーの説明書を読んでいた。
少しクセのある髪の毛、太い眉毛、骨ばった手・・・ほんとにカッコイイ!!

「よーし、開けるぞ」

一静は距離を更に縮める。いま横を向いたら一静の顔が間近にあるんだよね。
大丈夫かな!息遣い荒くなってないかな!鼻息とか気をつけなきゃ・・・っ。

「震えてるけど怖い?やっぱり辞めとくか?」
『え?』

気がついたら手が震えていた。
違うんです怖いんじゃないんです。あなたとの距離が近くて動揺で揺れてるんです。

『えっと、大丈・・・ひゃやぁあ』

首筋に何かが走った。

「あ、ごめん。旨そうだったからつい」

舐めた!?舐めたの?旨そうってなに??平然とした顔で言ってきたよこの人。

『もー!一静!』

言葉が途切れたと思ったら視界は一静でいっぱいだった。ゆっくり目をつぶると一静に肩を抱かれる。
何度もキスをされているうちに息が苦しくなり新鮮な空気を吸おうと唇を開けたら、すかさず一静の舌が入り自由を奪う。
自由に動き回る舌は私の身体を押し倒したところで離れていった。荒い呼吸をしている私を一静は見下ろしていた。
あー、これはスイッチ入っちゃったみたいだな・・・。

『・・・ピアス開けるの辞める』
「んー?なんで?」
『・・・一静に開けられると距離が近くてドキドキしちゃって無理』
「まぁ、最初から開けてやるつもりなんて無かったけどねー」

ニヤッと笑いながら一静はネクタイを外していた。もうこうなった彼は止めることが出来ない。けど私も止める気は無かった。
ピアスはイヤリングに付け替えてもらおう。
そんな事を考えながら一静の手と指を絡めた。

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