BOOK1 nmb/akb
□やさしい背中
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アントニオside
日曜の昼下がり。学校は休みだ。この時間までゆっくり寝ていた。
でも、もう寝れなくて起きて1人ぐらしの部屋で寂しくぼーっとする。
学校に行けばいつでもあいつが隣にいてくれるのに。今日は1人や。
こんな時は決まってやることがある。
このよくわからない虚無感を紛らわすために。
コビーside
家におっても暇やから、その辺のヤンキーとちゃぷちゃぷしようと思って出かけた。
街を一通り歩いたが、日曜の午後にヤンキーなんかおらず、ただの散歩になっていた。
気づくと学校の近くまで歩いていた。確かこの家アントニオ住んでるよな。
アントニオって家でなにしてんねやろう?そんな軽い気持ちでアントニオのアパートへ
向かった。アパートの一階の郵便受けでアントニオの名前を探し、3階の2号室だと
わかった。近くにあった階段で上がっていくと、やさしいギターの音色が近づいてきた。
コ「キレイやなぁ」
アントニオの部屋の前に着いても、その音色は聴こえていた。
ダメ元でドアノブに手をかけると、鍵が開いていた。物騒やけど、アントニオなら
大丈夫かと思いながらドアを開けると、ギターの音はさらに大きくなり、
歌声も聴こえてきた。声はアントニオの声だ。
コ「アントニオ、こんなキレイなギター弾くんや……」
♩抱き締めたいけど 寂しさに慣れよう 君がいない未来すぐに始まる
やさしいギターの音色と、少しハスキーで低いけど、全身を包み込むような白い歌声。
アントニオは玄関とは反対側を向いてイスに座って、ギターを弾いていた。
耳にはヘッドホンをしており、こちらには全く気付いていない。
いつもの恐くて強くてかっこいい激尾古の総長の背中ではなく、
ギターを弾くアントニオは、一音一音を丁寧に奏でるやさしい安心感のある丸い背中だった。
私はアントニオの歌をもっと近くで聴きたくて、部屋に入りソファーの前に座った。
ア「!!!!ちょっ!!!コビーかいな。何してんねん!泥棒かと思ったわ。」
コ「鍵、空いてたで。」
ア「空いてるからって、勝手に入ってくる奴がおるか!」
コ「えへへへ。」
ア「たっく…。はよ、帰り!」
コ「いやや。アントニオの歌聴きたい。」
ア「人に聴かせるもんちゃうわ。」
コ「アントニオって恐い顔して、ギターとかすんねんな」
ア「な…なんか、悪いか…。」
コ「なぁ、さっきの曲聴かせてや?」
ア「さっきのって?」
コ「♩抱ーきしめたいけどー…ってやつ。」
ア「絶対嫌や。帰れや」
コ「それ聴いたら帰るから。」
ア「わかったよ……。聴いたら帰れや。あと、誰にも言うなよ、このこと。」
コ「このことって?」
ア「ギターのこと!」
コ「せやなぁ。あの激尾古のこわーい総長さんが、ギターとかキャラ崩壊やもんなぁ。
どうしようかっなー。」
ア「お前っ、ほんまいい加減にしろや。」
コ「わかった。ええよ。ちゃんと歌ってな?」
ア「はいはい。」
アントニオはギターをスピーカーにセットして、私に聴かせる準備をしていた。
コ「なぁ?この曲、アントニオが作ったん?」
ア「せやけど…。」
コ「曲つくるんやね。」
ア「やかましい。よしっ、準備できた。」
♩あー この掌を水平線と平行にして眺めた
あー 夏の日差しが トビウオの様に青い海を跳ねてる
抱きしめたいけど、寂しさに慣れよう、君がいない未来すぐに始まる
まだ消えぬ愛はこの砂浜に置いていく、こんなに誰かをもう二度と愛せないだろう
コ「パチパチパチ」
ア「きぃ済んだやろ?帰れ。」
コ「なぁ、この曲実体験なん?」
ア「そ…そんなんちゃうし。」
コ「抱きしめたい人って誰なん??」
ア「もお!早よ帰れや!ほらほら」
アントニオは私を無理やり部屋から追い出した。
ア「気いつけて帰りや。あと、このこと誰にも言うなよ!」
コ「はいはい。もうちょっと聴きたかったなー。」
ア「うるさい。じゃ、明日な。」
そういうとアントニオは部屋のドアを閉めてしまった。
ガチャっと、鍵のかかる音がした。
アントニオside
嵐が去った。でもその嵐は私の心を一掃していった。
カーペットに残るあいつのぬくもり。暖かさがなくなるまで、私はそこに座っていた。
私は1人で大丈夫なはずなのに。