熱闘甲子園

□熱闘甲子園 過去編
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yui side

看「横山さーん。2番診察室にお入りください。」

いつもぱるるのお見舞いで来ているこの病院も、外来なんて久しぶりにきた。


2ヶ月くらい前だろうか、どうも肘に違和感があった。

練習が激しくなり、疲れからだろうと放っておいたのだが、
今日の試合でかなり痛みが増してしまい、仕方なく病院にきた。

晴「由依、呼ばれたよ」

由「ん。なぁ、晴香。一緒に来てくれるか?」

晴「えっ?」

由「いや、一応や」

なんか嫌な予感がした。
二人で診察室に入る。

医者の机の前にはさっき撮ったオレの肘のレントゲン。

医「肘離断性軟骨炎。野球肘ですね。しかも、かなり重症ですね。
よくここまで痛み、我慢しましたねー。」

徐々に痛くなっていたので、感覚が麻痺してたのかもしれない。

晴「治るんですか?」

医「手術して、3ヶ月ほど十分に休めば治りますよ。手術いつにしますか?」

由「えっ…」

晴「来週、県大会の決勝があるんです!」

医「無理をすればさらに悪化して、回復が難しくなります。
一生ボールを投げられなくなるかもしれませんよ。」

晴「先生……」

この話を聞いても、なぜかオレは冷静だった。
なら、オレが選択すべき道はこれしかない、と思えたからだろうか。

由「晴香、大丈夫やから。
先生。オレ、甲子園出ません。野球辞めます。でも、来週の試合には出させてください。
今オレが抜けたら、チームのバランスが取れなくなる。だから、出なきゃいけないんです。
痛み止めを下さい。試合が終わったら手術受けます。
このまま肘が曲がらないのも不便なんで。」

医「わかった。」

晴「由依……」




診察を終え、待合室で会計や処方箋を待つ。
晴香は隣でずっと泣いていた。3年間ずっとオレの隣で応援してくれたいたから。
晴香はやさしい人だから。オレの代わりに泣いていた。

由「何泣いてんねん。ケガしてるだけやで?死ぬわけやあらへんねんからww」

晴「でも……」

由「ええねん。これで。あいつらには甲子園行ってもらいたい。
それにどちらにしろ、オレは甲子園のメディカルチェック(出場選手に課せられる
健康診断。野球肘の有無などもチェックされる)で引っかかるから。
せやから、これでええねん。」

晴「由依…」

由「野球辞めたら、受験勉強でもしようかなー。今までサボってきたからやばいなー。
晴香、このことはまだ誰にも言わんといてな?」

晴「……なんで?なんで由依はそんなに強いの?」

由「強くなんかあらへんよ」

晴「私にはさ、弱いところ見せてもいいんだよ?一応彼女なんだから…」




強くなんかない。オレだって本当はずっと野球がしたい。
でも、そうやって言い聞かせてどうにか自分の気持ちコントロールしてんねん。
なんでオレやねん。なんで今やねん。オレが一番思ってるよ。

今、晴香に、他の人に、自分の弱いところ見せたらオレ壊れてまうわ。

由「ありがとな」

オレは、何事もなかったように晴香の手を握った。

由「オレは大丈夫やから…」







病院から出て、晴香を送り、自分も家に帰る。
するとぱるるたち一家が遊びに来ていて、今日の試合の祝勝会をしていた。
祝勝会という名の飲み会だが。親父たちもすっかりビールの缶を空けていた。

母「おかえりー。ご飯食べてきたん?」

由「いや、部員のみんなでファミレスでドリンクバーしてきただけやで」

母「そ。早く着替えてきちゃいなさーい」

由「はーい。」

自室に入り、制服を脱ぎ、部屋着になる。

とんとん

由「なに、母さ……ぱるるかいな」

遥「やっぱり。ファミレスなんて嘘でしょ?」

由「な…何ゆうてんねん」

遥「それ。」

ぱるるの指の先はオレの腕の、肘の包帯。
さっきまでは長袖を着ていたから良かったがTシャツに着替えたから。

遥「それに由依が帰ってきた時、病院の匂いがしたから。」

由「そっか。」

遥「どうしたの、それ?ケガしたの?」

由「大したことないで」

遥「ほんと?島ちゃんに聞いちゃうよ」

由「やめや」

遥「まっいいけど」




ぱるるはオレの机の椅子にちょこんと座る。そして、オレをジッと睨む。

由「ったく…ぱるるにはかなわんなぁ。」

隠しても無駄だと思った。だから、全部話した。ケガのこと、これからのこと。
口に出していくとなんだからさっきまで、オレの心を支えていた壁が崩れてきて、
悔しさや悲しさ、やりきれない感情が溢れてきた。

ぱるるはオレの話してることを理解しているのだろうか?
ぱるるはじっとオレの話を聞いていた。

母「由依!ご飯!」

由「………はいよ。
ごめんな、こんな話聞かせて。先行き?」

遥「うん。」

なぜ彼女にも、家族にも話せないことがぱるるには話せるのだろうか。
年下だから?ぱるるももう10だ。オレの話してることくらいわかっているだろう。
でも、なぜかぱるるには話そうと思えた。



次の週。痛み止めを駆使して県大会は無事優勝。オレの願いは叶った。
そして翌日には退部届を提出した。

チームメイトにはこっぴどく叱られてしまった。
なんで無理したんや、なんで言わないんやって。

でも、これで悔いはない。そう言い聞かせた。



手術も成功して、日常生活に支障はでないまでに回復した。


それからは野球に捧げていた時間を勉強に費やし、国立大に合格した。

これでよかったんや。これで。


end
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