熱闘甲子園

□熱闘甲子園22
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横「本当に申し訳ありません。私が付いておきながら……」

電話を掛け、見えないはずの相手に頭を下げる。

ぱるるの母「いいのよ、由依くん。いつものことだから」

横「今回は同室の同級生がすぐに気付いてくれたので大事に至らなかったのですが、
遥香さんの体調のことを知っておきながら、さらには部員ではないのに、
大阪に連れてきて、このような結果になり本当に申し訳ありません。」

母「由依くん、うちは大丈夫だから。由依くんが顧問だから何があっても任せられるし、
責任を押し付けることはしないわ。それに、遥香今まで部活やってこなかったでしょう?
合宿とか言ってみたかったんだと思うの。準備も楽しそうにしてたわ。
だから、自分を責めないで。」

横「はい………」

母「遥香、もう寝てるのよね。」

横「はい、薬が効いてぐっすりと」

母「じゃあ、朝になったら連絡よこすように言っておいてもらえるかしら。」

横「はい、わかりました。」

母「由依くん…遥香にここまでしてくれてありがとう。」

横「いいえ………」

母「随分、立派になったわね………」

横「僕なんてまだまだです。」

母「じゃあ、試合頑張ってね。遥香のこと、ありがとう。」

横「はい、失礼します。」





病院の電話スペースを後にし、ぱるるの寝ている病室に入る。
薬で落ち着いているとはいえ、顔色はまだ悪く、青白い月の光で照らされる腕は
細くて今にも折れてしまいそうだ。

由「ぱるる、ほんまにごめんな」

酸素マスクをしている頬を優しく撫でる。
子どもの頃から変わらず、ほんま小さいなぁ……。


遥「んっ………??」

ぱるるの目が薄く開き、こちらを向く。

由「ごめん、起こしちゃった?」

遥「ここは?」

弱々しい声で言う。

由「病院だよ。指原が発作に気付いてくれたんだ。」

遥「また出ちゃったか……」

由「先生は、環境が変わったからだろうって。」

遥「うん………」







ぱるるは、いつものことかと事態を飲み込むと、ベットのリクライニングを
少し上げ、外の青い満月を見つめた。









遥「ねぇ、由依?覚えてる?」

由「ん?」

遥「小さい頃に見た由依の最初の試合、かっこよかったなぁ。」

由「ぱるる、まだ小さかったやろ。よく覚えてんなぁ。」

遥「中学の部活の試合も見に行ったなぁー」

由「来てくれたな。嬉しかったで」

遥「由依が野球辞めるまでずっと見てきて、辞めるときも悔しそうだったの覚えてる。」

由「…………」

遥「無理したらダメって言われてたのに、みんなに迷惑かけるからって無理して。
そういうとこ、真面目で。」

由「昔の話やから。でも、後悔はしてへん。そう言えるようにしてきたから」

遥「由依が高校の先生になるって聞いて、もしかしたらって思ったら、私と同じ学校で。
しかも、由依がまた野球やるって聞いて、私嬉しかった」

由「あの時はちょうど顧問がいなくて、暇だったのがオレだけやったから」

遥「毎日保健室から見える、由依がノック練習とかしてる姿見て、
キラキラしてて、ホントにかっこよかった。」

由「ありがとう」

遥「ゴホッ、ゴッホ………」





少し長い間喋ったからだろう、 喉が乾燥してまた咳き込んでしまった。
ぱるるの苦しそうにする背中をさすってやった。





由「喋らんでええから、もう寝や。オレも仮眠室行くから。」

遥「……待って……ケッホ」






ぱるるはオレの行く手をギュッと掴み、行かないでと目で訴える。






遥「私ね、由依のことずっと好きだったの。小さい頃からずっと。」

由「えっ……」

遥「保健室から見えるのはいつも由依だけだし、
その前もピッチャーの人より、ライトの由依のことずっと見てた。
野球だけじゃない、ずっと由依のそばにいたいの。
でも、歳も離れてるし一緒の学校行けないって思ってたら、高校の先生になってて。
ホントにうれしかったの。由依のそばに長くいられるって。
由依にとっては子どもかもしれないけど、私本気で好きなの。」

由「ぱるる、あかんって。やって………」

遥「私、部員じゃないよ。部内恋愛禁止。部員じゃないからいいでしょ?」

由「そういう問題じゃ……」

遥「じゃあ、生徒と先生?私たちその前に幼馴染でしょ?
幼馴染が恋人になっちゃいけないの?マンガではよくあるよ。」

由「ぱるる。ぱるるにはオレより歳も近いもっとふさわしいやつおるから……」

遥「由依じゃなきゃだめなの……」

由「ゴメン、明日もあるから。オレ、仮眠室行くな。ちゃん寝ろよ……」

遥「私、諦めないから。」

由「おやすみ」





オレは逃げるようにぱるるの病室を後にした。


突然、歳の離れた幼馴染で、自分の生徒に告白されたらどうすのが正解なのか。
好きだと言ってやるべきなのか、
それとも幼馴染でもあるが、生徒と先生だからあかんと叱るべきなのか。

そもそも、ぱるるのことはかわいい妹のようだとしか思ったことはない。
好きだと言われても、答えられる自信もない。



その日は頭がいっぱいで、仮眠室に行くも一睡もできなかった。





end
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