熱闘甲子園

□熱闘甲子園14
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rie side


毎日の日課である夕方のランニング。
試合や練習で疲れていても、夕方のいい時間に風を切るのは気持ちがいい。



公園の周りを走っていると同じ学校女子の制服を着た人がベンチに座っていた。
少食だから細くて、身長も小さい猫背の彼女。今日は更に猫背だ。

里「莉乃ちゃん?」

莉「えっ?」

莉乃ちゃんは僕の方を一瞬見たが、顔は涙で濡れ、目は真っ赤だった。
サッと反対側を向くと涙を拭う仕草をした。

里「莉乃ちゃん、目真っ赤だよ。どうしたの?」

莉「里英ちゃんには関係ないよ。」

そういうと彼女はまた俯いた。

莉「里英ちゃんこそ、こんなとこで何してんの。」

里「何ってランニング。そしたら泣いてる莉乃ちゃんがいたから。」

僕は莉乃ちゃんの隣に間を空けて座る。
本当は幼馴染として、背中でもさすって慰めてあげれば良いんだろうけど、
僕らももう18歳。さすがに彼氏でもないのにそんなことはできない。

本当は今すぐ好きだと言って抱きしめてあげたいけど、今の僕のままじゃフラれるのが
オチだから。恋愛経験のない僕でもそれくらいはわかっているつもりだ。





里「前にもこんなことあったよね。」

莉「ないよ」




莉乃ちゃんは忘れてしまったかもしれないが、僕は全てはっきり覚えている。
最初は幼稚園の時。初恋に落ちた瞬間だから。
泣いている莉乃ちゃん見て、僕が守らなきゃと思った瞬間だ。

それからずっと莉乃ちゃんは僕ではない人に恋をした。
莉乃ちゃんが好きになるのはいつも、学校一のイケメンとか、俊足とか、秀才とか。
僕とは程遠い存在の奴らばかりだった。
そして、莉乃ちゃんはいつもフラれるの。
告白するときもあれば、せずにフラれるときもある。


そして、莉乃ちゃんは僕に泣きつく。
僕はそんな莉乃ちゃんを見て安堵してしまう。誰かのものにならなくて良かったと。

莉乃ちゃんの幸せを誰よりも願っているはずなのに。






野球を始めたのだって莉乃ちゃんが理由だ。
今となっては笑ってしまうが、小学生の時一緒に帰る道で近くの中学校のグラウンドで
野球部が練習しているのを見て莉乃ちゃんが『野球してる人ってかっこいい』
と言ってくれたのがキッカケだ。野球で強くなったら莉乃ちゃんは振り向いてくれるかも
しれないと淡い期待を抱いたのだ。

一生懸命練習するうちに、単純に野球が好きになり今まで続けてきた。

でも、辛い練習乗り越えられたのは莉乃ちゃんがいたからだ。





里「今回は…………山本?」

高校を卒業したら東京に帰ってくるからと言われていたので、
転校するときも聞いてもそんなに驚かなかった。

むしろ、莉乃ちゃんがいない間にもっと強くなって、莉乃ちゃんを驚かそうと思っていた。

今回の選抜で莉乃ちゃんが東京に帰ってくると聞いて、
キャプテンにもなって、大きくなった自分を見てもらえると思いワクワクしていた。


でも、莉乃ちゃんが次に恋したのはピッチャーの山本。


キャプテンとはいえ、 僕は地味なキャッチャー。
そりゃ、顔良し、野球もつよい、華もある山本の方がいいよな。
また僕ではないのかの悔しさもあった。
莉乃ちゃんが転校してきた時からなんとなく予想もしていたし、もう慣れっこだった。




莉「うん。」

里「そっか。」

莉「ねぇ、里英ちゃん。腹すいた。」

里「ウチおいで。お母さんにご飯作ってもらお」



失恋した莉乃ちゃんに、今の僕ができるのはこれくらいしかない。
莉乃ちゃんには早く笑顔になって、次の恋をしてほしい。
そして、その次の恋は僕にください。




そう思いながら、莉乃ちゃんの隣を歩く僕はズルいですか。





end
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