story
□クソ松はクソ松
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そんなこんなで今に至る。
いたたまれなくなって家を飛び出したものの、自分に行くことろなどなく、結局はいつもの路地裏へと向かう他なかった。
何かあった時、猫がいる路地裏にしか行く場所がないなんて、やっぱり自分はクズだ。
しかもその「何か」が、「風邪を引いた兄弟に罵詈雑言を浴びせて、挙句の果てに勝手にとびだしてきた」ことだなんて。
良くできたクズだ、と。自分自身に感嘆さえ覚えてしまった。
しゃがみ込んで猫の頭を撫でながら、ぼんやりとクソ松の事を考える。
薬は飲んだろうか。
あの後飯は食えただろうか。
兄弟の誰かが帰ってきて、クソ松が風邪を引いていることに気づいてくれただろうか。
俺は他の兄弟の様に、素直に優しくなんてできない。
言葉にしようとしても、いつの間にか口からは捻くれた言葉が飛び出していて、嘘を冗談と聞き流すことも出来なくて。
そんな俺なのに、クズなのに、自分でそんなこと分かってるのに。
あの時、二人で朝食を食べていた時、自分しかいなかったら、嘘なんかつかないんじゃないかと。何故だか勝手にそう思ってる自分がいた。
でも現実はそんな事なくて。分かってたけど。そんな事ありえなくて。
クソ松は、やっぱり嘘をついた。
他の兄弟と居る時と同じく、俺と二人の時も嘘をついた。
当然だよねと思いながら、不意に目尻が熱くなるのを感じた。
すると次は胸がぎゅうと痛くなり、噛みしめた口の端から嗚咽が漏れはじめた。
泣いていた。
泣く程の事でもないのに。そう思ってるのに、目の端からぼろぼろと流れる涙は止まらなかったし、痛む胸も良くならなかった。
嗚咽を抑え込むように、泣いてる事をなかったかのように膝の中に顔をうずめた。
その時。
「――― 一松!」
クソ松の声が聞こえた。