贈り物

□Scent
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朝、目覚めると携帯のお知らせランプが光っていた。見ると、未読メールが一通。

まだ覚醒しきってはいない頭でメールを開く。そこには『夜天君』の文字。

慌てて見てみると『明日11時に僕ん家ね』そう一言だけ書かれていた。時計を見ると9:30分。

慌ててベッドから起き、準備をする。

(もう、急なんだから〜;)

そういうのも夜天らしいのだが。そう思いながらもせっせと準備するうさぎだった。







ーーーーーーーーー





「はぁ・・はぁ・・休みの日まで・・はぁ・・・何で・・・はしっ・・・」

息も切れ切れではあるが、なんとか指定された時間には到着出来たうさぎ。

乱れた息を整え、インターホンを押す。

暫くしてから『今、開ける』と短く発せられた言葉。すぐにガチャっと扉が開き、中から夜天が出てきた。

「ちゃんと来たんだ」

悪戯っ子の様な笑みを浮かべながら『入れば?』と言われ、中に入る。

「おじゃましまーす」

「誰もいないから。適当に座ってて」

2人きり、と言うことに少々緊張し、遠慮がちにソファに腰掛ける。

「ミルクティーでいいでしょ」

暫くしてから二つのマグカップを持って来て、うさぎの隣に腰掛ける。

「うん、ありがと」

そのうちの一つを受け取り、口付ける。ほのかに甘い味に心も穏やかになる。

ふと、夜天に後ろから抱き締められる。その時に微かに香った香りにうさぎは胸が締め付けられそうになる。

「うさぎ、どうしたの?」

2人だけの時は『うさぎ』と呼んでくれるようになったのはまだ記憶に新しい。

夜天はうさぎの僅かな表情の変化も見逃さない。

意を決してうさぎは口を開く。

「この香り・・・夜天君の匂いじゃない・・・」

「香り?」

「夜天君、いつも金木犀の甘い香りがするの。でも、ここ最近はこの、違う香りが・・・」

そう言って俯いてしまったうさぎ。はぁ、と溜め息をつき、どこかへ行ってしまった夜天。

(変なこと言って嫌われちゃったかも)

と、増々悲しい気持ちになり、泣きそうになっていると、またも後ろからふわりと抱き締められた。

「何?僕が浮気したとでも思ったわけ?」

少し呆れ口調な夜天にしゅんと項垂れるうさぎ。

「ねぇ、僕が女嫌いなの知ってるでしょ?」

コクリコクリと頷くうさぎ。

「これ、あげる」

唐突に渡されたもの。小さな袋に丁寧に包装されてある。

「なに?これ・・・開けてもいいの?」

「いいよ」

丁寧に包装をはがすと一つの箱が。不思議に思いながらも箱を開けると月の形をした瓶が出てきた。

「香水」

ぽつり、夜天から呟かられた言葉に増々不思議に思ううさぎ。

シュッとつけてみれば、記憶に新しい香り。

「夜天君、これ・・・」

そう、その香りはうさぎがずっともやもやしていた原因のもの。つまり、ここ最近夜天から香るものと同じだった。

「僕の新しい仕事。オリジナルの香水を作ってって頼まれたの。最初は嫌だったんだ。元々香水はつけないし。でも、仕事だからと思った時にうさぎにもプレゼントしようと思って」

最初は大気が怖いからと言うのもあったが、『香水を自分で作る』というところは少し興味があった。それにふと、うさぎにも自分の作った香水をあげよう、そう思ったのだった。

「そうだったんだ。あたしったら・・・」

「ほんと、変な誤解やめてよね。でも、そうさせたのには僕も悪いから。仕事が忙しくて構ってやれなかったし」 

「でも、なんで夜天君からその香水の香りが?」

うさぎのために作ってくれたのはよくわかった。けれども、何故、その香りが夜天からしたのか。

「試作で貰ったんだよ。こんな感じでいいかってね。だから普段はしないんだけど、最近つけてた」

それに、と小さく呟く。

「うさぎの為に、うさぎの事を思って作った物だから。なかなか会えなかったしせめてもの・・・って僕何言ってんだろ」

顔を赤らめそっぽを向いてしまった彼が愛おしくて堪らない。そう思いうさぎは夜天に抱きついた。

「ありがとう。夜天君。だぁーいすきっ」

不意に呟かれたその言葉に増々照れる夜天。

「そういえば、この香り何?」

「ヒマワリ。うさぎはいつも前を向いてて元気だからぴったりだと思ったの」

いつでも明るくみんなを幸せにする笑顔。前向きで下を向くことなどほとんどない、太陽の様な。そんなうさぎにはぴったりのイメージだった。

「それと、ヒマワリの花言葉知ってる?」

知らないであろううさぎにわざと聞いてみる。やはりわからないようできょとんとしている。

さっきの仕返し。と言わんばかりにうさぎの耳元でそっと呟く。

「私はあなただけを見つめる」

うさぎの顔が真っ赤になったのは言うまでもない。

「ねぇ、夜天君」

ちょいちょいと夜天の服を引っ張るうさぎ。

「それじゃあ、夜天君はあたしの太陽だね!」

にっこりと微笑みながらぎゅうっと夜天に抱き着く。

よく、恥ずかし気もなくそんなこと言えるよ。とは思うものの、うさぎに言われたことが嬉しい。

君が不安になって下を向いていたら、いつでも僕が上を向かせてあげる。僕が君を導くから。




ーendー
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