風魔某忍日録

□〈後日談・肆〉まろうどの訪れ
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 真田忍隊長、猿飛佐助の元に風魔頭領の娘が産まれたとの報があったのは、雪の多く降る冬の事であった。


「ほ……っほんとに!?無事産まれたの!?女の子!!?
 ちょ……っ、旦那、真田の旦那!
 俺様ちょっくら様子見に行ってくるから、数日休みにしてくんない?」


 溜めに溜めた書類の山に囲まれ仏頂面、机に向かって筆を進めていた幸村に対して、佐助はそう申し立ててみたものの。
 やりたくもない書類仕事にストレスを感じピリピリしている現在の幸村に通じる筈はなく。


「佐助。 この状況で俺がお前一人解放すると思うのか。
 −−−…………減給にござる!更には当分休みなどやらぬぞ佐助ぇぇえええええ!!!」

「ええええ!!!? そんな! 嘘だろぉおおおぉお!」


 の何時ものパターンでもって、結局の処、佐助は遂に紗霧の処へ−−−正確には小田原城の氏政の処へ−−−顔を出せたのは、雪も溶けた春先の事であった。



※※※※※※


 離れた処から尋常成らざる凄い轟音が(地響きと共に)鳴り響いて来るのを、風魔忍集まる草屋敷の一室にて感じ取った紗霧は、どうやら小田原城自慢の超絶栄光門付近で暴れて居る人物が居る事を悟っては、此の大音の中でも泣きもせずにニコニコと笑みを浮かべる己が可愛い娘を抱き抱え乍「お客さんが来たのかなー?どう思うー?霞ちゃん。」等と、特に慌てる事も無く悠長な会話(娘は未だ話せない為にそれは既に只の一人言である)を繰り広げて居たのである。


「おい、紗霧。お前に客だ。
 あのままじゃ門が倒壊する。
 −−−会ってやれ。一刻も早く。」


 疲れきってはウンザリした様子を見せる(忍とは思えぬ豊かな感情表現である)猪介に言われた紗霧は、来ている人間が己への客だと知って驚いた。


「お客様、私にですか?」

「そうだ。
 此処は流石に草屋敷だからな……場所は割れてねぇ故にか氏政様に直接掛け合いやがったらしい、あの野郎。
 って事で仕方ねぇから城の一室を−−−」


 と猪介が其処まで言った時である。


 ズドォオオオオオ…………ン


「「…………。」」


 先にあった爆発音よりも少しばかり近く聴こえた爆破音に。


「控えの間を氏政様より御借りした。直ぐ用意して向かえ。
 俺はアレを連れて行く。」

「リョーカイでーす。
 お客様なんだって、霞。
 折角だからこの間縫った新しい御羽織着ちゃおっか。
 霞ちゃん、女の子なんだからお洒落しないとねー。」

「あーう、あ〜〜」


 何処か楽しそうな母の心を受けてのものか。至極嬉しそうにはしゃぎ出した赤子、霞の様子を見ては無言でそっと胃の腑を利き手で押さえる猪介の姿が印象的であった。
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