セブルスSと極東の魔女

□番外〈閑話〉デアイ
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 その日、相変わらず酒に溺れ力を奮う事しかしない父親と、そんな男を見限りもせず怖れながらも未だ従う様子をみせる母親から逃れようと、薄暗い家から外へ飛び出した少年は、運命的な出会いを果たすこととなった。

 こんな時何時も時間を潰すため訪れていた公園に珍しく先客が見られた事に興味を覚え、見付からない距離から少し様子を窺ってみようとコッソリ近寄ってみたのである。

 その人影の周りを小鳥が飛び交い、足元には何匹もの猫の姿。

 この世に生を受けて(未だ10年程でしかないとはいえ)それだけ生きてきた中でも今までそんな光景など見たことは無く。
 猫が小鳥に襲いかかる事もなく大人しく膝の上で丸くなっている様子に、これは魔法の力なのではないのかと其の中心に居る人物を注視してみたのだが。


 腰元まで伸びた、真っ直ぐでサラサラと風に靡く長い黒髪に雲間から漏れる光を受けて、光輝く髪艶が環を描き何時かマグルの本で見た天使の輪の様。
 身体の大きさや身長から見て、どうやら子供であるようだったが、少年ーーー……セブルスは、初めて観るその光景に、人物に、少しの間見惚れていたのだ。


 この果てが無いと思っていた暗闇の世界に一筋の光が射し込んだ様で。


 セブルスの髪も黒色ではあるものの艶も無くくすんでおり、乱雑に切られた手入れのされていない己の物とは全く違うその姿は、愛しそうに動物を愛で微笑むその幸せそうな……幼い子供とは思わせぬ慈愛の表情と相俟って、現実の物ではないようなーーー……まるで夢の世界かお伽噺の世界に紛れ込んでしまったかのよう錯覚させて。


「……凄い、それは、魔法? 君は魔女なのか?」


 思わず口から漏れ出た一言に、セブルスの声が耳に届いたらしいその子供は此方に振り向くと、其の黒曜石を想わせる瞳で真っ直ぐ見据えながら己に向かって微笑んだのだ。


 本来無償の愛を与えてくれる筈の存在である【親】というものからですら其のような眼を向けられた事はなく、周囲の人間も身に不釣り合いなブカブカのシャツを着て歩く己を見ると大抵は眉を顰め厭そうな顔をすると言うのに、だ。

 そんな己に対して。

 貴方も魔法使いなの?私と同じね!隣に座って、一緒にお喋りしよう!

 そう言ったのである。


 【同じ】黒髪、【同じ】魔法使い、【同じ】年頃だと幾つもの【同じ】を挙げ列ねて、友達になってくれるかと聞いてくる其の少女。

 セブルスから見ると【同じ】であるとは到底見えなかったと言うのに、彼女の眼から見ればどうやら【同じ】に見えるらしい。


「貴方と逢えてとても嬉しい!今日は此処に来ていて良かったわ!」

 少女がそう口にした時には、既にセブルスは、本人は気付かぬ心の奥深い処で、淡く幼い仄かな恋心に程近いーーー心酔、依存、そして恐らくは執着と言ったような強い感情を懐いて居たのである。

 子供である故の、雑じり気ない真っ直ぐで純粋なーーー……。


※※※※※※


 余談では有るが。

 そうして十数年の後にこの当時の話をセブルスから聞いた紗霧の台詞が此れである。

「う〜ん……幾らなんでも。……貴方の眼、何補正掛かってるの、セブ。」
 

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