櫛風沐雨忍法帳
□龍と私と。
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戦と云うものは、一度出陣すると数ヶ月戻って来なかったりする存外時間の掛かる物なのである。
その間家は奥方が守るもの。連絡と言っても文くらいしかなく、其れも其れなりに裕な家でなくば紙を用意するのも不可能である。
家で不安を抱え待ち続ける女達。
戦場で家族を想い戦い続ける男達。
どちらも互いの事が心配であるから、可能であらば連絡が欲しいと思っているものであって。
紗霧は大忙しなのであった。
※※※※※※
「権兵衛さーん、奥さんと息子さんから言伝てですよー。
『父ちゃん頑張って、待っているからね』お二人ともお元気そうでしたー。
助六さーん、ややこ無事産まれましたよー。おめでとうございますー。おっきい声のおのこでした。目もとが助六さんによく似てた気がしますー。
平太さーん、反物屋のお菊ちゃんから『無事もどったら考えてあげてもいいわよ』って。何ですか?祝言でも考えてんですか?」
「へぇ、助六、Congratulation!めでてぇじゃねぇか。戻ったらPartyだな。
平太は気合入れてけよ、気合い。男ならガンガン押していけ!Give it all you've got!〈全力でやれよ!〉」
紗霧の耳には懐かしい横文字、見事な発音のルー語を操るハスキーでセクシーな男の声が耳を擽る。
わざわざ確かめるまでもない。この世界ではルーは唯一人、奥州筆頭 伊達政宗、その人である。
「で?面白い事やってんじゃねぇか。見たところくの一みてぇだが、お前、何処の忍だ?」
「筆頭!この子はアレですよ、ほら、雇われ忍の。」
「Ah?……風魔か雑賀衆か?」
「風魔に御座います。…筆頭、と言うことは、貴方様が独眼竜 伊達政宗公であられますか。」
「Exactly〈その通り〉、で?」
「お初にお目にかかります、風魔の紗霧と申します。」
伊達軍の陣とはいえども此処は足軽等が多く、所謂『偉いさん』はそう来るまいと思って油断していた紗霧は、いきなり筆頭に遭遇した(頭の片隅で、筆頭にヒット!等と考えそうになったのだが、ソレはちょっと頂けない…と思い直し気付かない振りをした)為に相当驚愕したのだが。
「OK、紗霧。何しに来やがった?」
鋭い視線に、流石独眼竜、余裕のある態度にもかかわらず油断はないんだなぁと非常に感心しきりである。
ともあれ、警戒されるも尤もであるからして。此処は正直に、が良策だろうと口を開こうとした処。
「大丈夫ですよ筆頭!この子は戦のたんびに方々の村里廻って、言伝てとか様子見てきてくれるんで。雇い賃も高かねぇし、俺ら足軽なんかの間じゃあ助かるってぇんで、人気者なんすよ。」
先程の、ややこの産まれた助六さんが説明するに。
「Ahhhh?……雇ってんのか?」
思いがけない事を言われたというような怪訝な表情、眉をひそめて此方を見るに。
「雇われると言えば大袈裟ですが。任のついで、お願いを聞く代わりに立ち寄った折夕餉を頂いたりするくらいで御座います。」
(睫毛バシッバシだなぁ…瞬きで風が来そう)等と考えているは秘密である。