櫛風沐雨忍法帳
□猿と劔と私と。
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「あれ?あんた風魔んとこの忍ちゃんじゃねぇの。奇遇だねぇ。あんたもこの先の城に用事ってとこ?丁度良いとこに来たってもんだ。」
何時ものどさ回り営業のついで、近場の文の配達に訪れた紗霧であるが、目的の城に近く聳える木の枝に足を掛けた処。何時か見えた覚えのある声に、一度足を止め振り向くと。
「……ああ、甲斐の襖修理の方。」
「なおさせたの根にもってんの!?何だよ襖修理の方って!俺様天才って言われてる優秀な忍だぜー。……じゃねぇや、そんなことより、ちーっとばっか俺様の話聞いてってくんない?」
「待て、佐助。ソイツは誰だ。先ずは紹介しろ。」
夜目にも鮮やかな夕陽色と金糸が其処に在った。
(忍ぶ気あんのかな……)
其れに比べ、紗霧は完全に真っ黒である。
「おっと、いけね。この子風魔の旦那のとこの、えーっと、」
「紗霧です、猿助さん。」
「猿飛!猿飛佐助!ちょっと酷くない?そりゃ忘れてた俺様も悪いけどさ!」
「紗霧、私はかすが。謙信さまにお仕えしている。」
「お話だけですが存じてますよ。上杉公の美しき劔。はじめましてー、風魔の配達忍〈はいたつにんと読む〉です、よろしくお願いしますー。」
「ああ、よろしく頼む。敬語はいらない。普通に話せば良い。」
「俺様無視かよー」
深夜、他国の城近く、忍3名。此れは一体何の会話か、上司(猪助)にバレたら怒られるヤツである。
「そんで猿助さん。こんなとこで井戸端会議とは此れ如何に、ですよ。何やってたんです?」
「それがさー、ここの城主に何か怪しげな動きがあるってんで様子見に来た訳よ。そしたら警備がさ、凄い事になってんの。中の様子も見ときたいんだけど、面倒な感じでさぁ」
「私は密書を獲ってこなければならないのだが。どう侵入すべきかと考えている処に、この猿助が来てだな。」
「かすがまで猿助はやめて!紗霧ちゃんも、いっそ佐助って呼んでくんない?」
「さ(る)すけさん、話進めて。」
「今ちっさく『る』言わなかった!?…アレだ、今回俺様たち、敵って訳じゃないんだしさ、手ぇ組まなーい?ってな。1人でいくより楽でしょ。」
成程、話自体は解りやすいが紗霧は何せ隠密行動は得意中の得意である。本来単独で何の問題もないのであるが。
「まぁ特に目的も被って無いみたいだし、良いですけど…」
「紗霧ちゃんは何の任務なの」
「……文を、」
「………文?」
「ここの城主様の奥の方に、あ〜…コッソリ?文をお届けに?いやはや、情熱的、燃え上がってる、禁断の。」
「え、何ソレ、浮気?」
「私アレです、口固いので。バレちゃダメなヤツなんで、何も言えない感じで。」
「固くないじゃん、言っちゃってるじゃん。」
「……浮気だと?なんて不実な!何でそんな物を届けるんだ!捨ててしまえ!!」
「いやいや、かすがさんてば忍らしからぬ清廉潔白な…こんなでも任務だからなぁ…流石に捨てるのは。」
「紗霧ちゃんもあんま忍らしくはないぜー、つか、文の配達ばっかしてない?」
「私その担当だから。速い!確実!安心!の風魔配達忍です、御贔屓にどうぞ。ちゃんと報酬貰えればお仕事しますよー雇われ忍なので。」
完全に井戸端会議である。