何時だって観るだけで
□カミサマ
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雨野紗霧は極控え目な少女だった。
特に目立った容姿でもなく、学校の成績は上の下辺り、学年も二年と間であって、クラスこそ特進ではあるもののスレスレというところ。実家も普通で、サラリーマンの父専業主婦の母を持つ。
然したる特技も無く、このまま普通に卒業し、普通の大学にでも行って、普通に嫁入りして、普通に老衰コースだろうと思っていた。
この瞬間までは。
●何時だって観るだけで●
「僕と契約して魔法少女になってよ」
第一声がそれだった。
紙袋を被っていて顔は見えないが、声色から、笑って居るのが窺えた。背は高く、190−…下手すると2mあるのではと思わせるその男とは初対面である。
(何言ってんだてめえ)
口を開く事も戸惑われ、ただひたすらに目−…というよりは紙袋に開けられた穴−…を凝視する。
(変質者かもしれない)
混乱極まっていた。
紗霧の居る此処は、人口約40万人の地方都市『兎角市』、戦乱の時分に大店の女中娘を護ったニャンコの神様が祀られて居ると謂われる一部の女子が食い付きそうな逸話のある神聖な−…所謂神社である。
訳のわからない男と二人、見つめ合いながら紗霧は思い出す−…。
常よりかなり早く目が覚めた紗霧は清々しい気分でもって太陽を拝むため部屋の窓を開けたのだが、其処で奇妙な蠢く木(のように見えるが何だありゃ)を視てしまったのだ。
幹から生えている枝というよりは人の手の様なものを太陽に向かって力強く伸ばしているアレは、
(光合成か…)
手真似木と呼ばれている厄怪物[やっかいもの]である。近づくと手の様な枝を伸ばし握手を求めてくるだけの害の無い、妖怪だか精霊だかそういった類いなのかすら解らない謎の存在だが、彼女としては初見であっては、其れが何か当然分からなかった。
故にこう考えたのである。
(そうだ、神社に行こう)
と。
二年生に上がったばかり、未だ受験勉強には取り掛かってはいないが、ストレスかもしれない。それで変な物が見えるのだ。
とすると普通は病院だろうが、其れでは外聞が悪すぎる。隣の奥様方に、あの子ノイローゼですって、等と噂されるのは御免である。普通に生き抜こうと決めている。
(お祓いとかして貰ったら落ち着くかも。プラシーポ効果ってやつ)
此の時点で既に余り普通の女子高生の考え方とは言い難いが、彼女は普通だと思っている。
そして家を出て、謎の木を避け遠回りしてやって来た神社の階段が突然エスカレーターじみた動きを見せた事にビビりつつも昇りきった其処で会ったのである。
某魔法少女の出てくるアニメで有名な、怖可愛いキャラクターの台詞を嬉々として語る変態紙袋男に−…。