PAST
□Deer side〜嘗て人だった者
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そこから、大体80年位経った・・・のだろうか。
長い事生きていると、時間の感覚が分からなくなる。
ある予言を聞きつけたエジダイハの者達は、こんな話をよくしていた。
「もうじき、この里に次の神竜様がお産まれになるのだそうだ」
「何と誉れ高き事か。我々の命を懸けてお守りし、大切にお育てせねばなるまい」
「神竜様の為に死ねるのならば、我々も本望という物だ」
「ああ、早くお会いしたい。待ち遠しくて仕方が無い」
今思えば、彼らは人間としてはかなり不思議な部類の者達だった。
人知を超えた存在の生誕を喜び、全身全霊を以てしてそれを守ろうとする。
当時の里の者達は老若男女問わず、誰一人としてその例外は居なかった。
私の元へよく遊びに来ていた、この紫髪の少年も、その一人だ。
「ねえねえエヴィ、シンリューさまって、どんな姿をしているの?」
エヴィ「サク。悪いけど、私は神竜様のお姿を拝見した事は無いの。母さんなら知っていたかもしれないけど」
時の勇者が、先代の神竜様だったとは聞いた。
だが私は、会った事が無い。
母は面識があったかもしれない、というのは、彼女は嘗てコキリの森に住んでいたらしいからだ。
幼少期の勇者がどうだった、とかは延々と聞かされたー飽きる位には。
だが、肝心なー神竜様の事を聞く前に、彼女は病で亡くなった。
薬師の母が、自力で治せないような難病だった。
以来、私は独りで、一族が継いできた技術を守っている。
この子は、転んで怪我をしたのを治したのがきっかけで、仲良くなった。
まだ5つながら、勇敢で心優しい少年だ。
エヴィ「ただ、見た目も種族も人間である事に間違いはないと思うわ。だから、普通の赤ちゃんよ、きっと」
サク「そっかあ!エヴィって物知り〜!」
エヴィ「・・・今のは、褒めるとこじゃないわよ」
正直、この純粋さに私は弱い。
子供は好きだけどーいや、寧ろそのせいか。
エヴィ「それにしてもサク、その木刀はどうしたの?」
サク「長にもらった!僕、シンリュー様を守る騎士になるんだーって言ったら、ずっと前に作ったってものをくれたんだ!」
長ーこの不思議な人々を纏める、穏やかながらも力強い老紳士。
昔は鍛冶をやっていたという彼の作った剣は、作成から数年経過しているのを感じさせない程素晴らしい物だった。
子供に持たせていい物では無いがーまあ、この子ならば、間違った事には使わないだろうから大丈夫だろう。
エヴィ「私も応援しているわ。頑張ってね」
サク「うん!」
少年は木刀を大事そうに抱きしめて、満面の笑みを浮かべていた。