PAST

□白竜物語
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それから、気の遠くなるような時間が流れました。


その間に、人間は、いい意味でも、悪い意味でも、変わっていきました。


技術が進歩し、人の感情が豊かになり、文明が築かれていきました。


それと同時に、人の中に黒いものが生まれ始めました。


それは、心の中の闇でした。


人々は自分の為、もしくは、自分の所属する集団の為、他者を傷つけるようになりました。


盗みや略奪、虐待、殺人。


凄惨な現場を見守る立場となってしまった始祖の竜達は、酷く心を痛めました。


精神的に幼い姉弟は、一層嘆きました。


「どうして、かれらはきずつけあうの?」


「どうして、なかよく、しあわせにくらせないの?」


四大は答えました。


「生きている者同士、争わずにいられないときがあるのよぉ。理由は人それぞれだけどねぇ」


「人間とて生き物。自らの生存の為に、他者を食うのが、この世の道理だ」


「でもさぁ、人間同士で食ったりはしないよねえ。人肉はまずいって言うしさ」


「これも進化の過程で生まれた争い・・・しかし、彼らにとって我々の力は強大過ぎる。見守るしかあるまい」


姉弟は考えました。


どうしたら争わずに済むのか。


どうしたら手を取り合えるのか・・・。


しかし、いくら考えても、答えはでませんでした。


四大は、そんな姉弟の心境を察しながらも、傍観を決め込んでいました。


全ては、世界の均衡を守るためでした。


始祖の竜である彼らが、人程度の争いに介入するのは、この世界にとって危険な事だったのです。


しかし、彼らの知らない所で、破滅の時間が、刻一刻と迫っていました。


「ねえ」


「なあに?」


「なんか、へんなの」


「どう、へんなの?」


「なんかね、とにかくかなしくて、くるしい。ときどき、とてもいやなきもちになる。なんでかな?」


「わかんない。びょーきかな?」


「うーん、ボクらってびょーきになるの?」


「うーん・・・」


「・・・たぶん、だいじょうぶだよね」


「・・・うん、だいじょうぶだよ」


人の為に悩み続ける、心優しい弟が、その破滅のきっかけとなってしまうとはー


この時の黒い竜は、知らなかったのでありました。
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