PAST

□主慕う白き翼
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「お母さま!」


高い子供の声が、私を呼ぶ。


物思いに耽っていた私は、ふっと正気に戻り、声の方を見やった。


まだ飛ぶ事が出来ない為、小さな両の足でトコトコと懸命に歩く息子の姿が、そこにはあった。


ホワイト「あら、セフィ。急ぐと転ぶわよ」


私がそう言うと同時に、息子がコケて、顎を地面にぶつけた。


慌てて起こしに行き、様子を見る。


怪我をしてはいないようだー息子が笑う。


セフィ「お母さま、お仕事お疲れ様!あと、おかえり!」


ホワイト「ええ、ただいま」


私が微笑むと、息子は愛らしい笑みを返してくれた。


そんな息子の姿に、自然と頬が緩む。


ホワイト「ごめんなさいね、いつも家を空けて。本当は寂しいでしょう?」


神獣故に、片親が居ないから猶更だろう。


神獣は、体を構成する粒子から子供を作るらしい。


それは、神獣は性別関係なく、皆子供を作れるという事。


そして、神獣が基本片親であるという事でもある。


セフィ「うん、寂しい。でもね、その分こうやって会える時が嬉しいし、その時まで頑張ろうってなれるんだ!」


息子の健気さが身に染みる。


私だって同じ気持ちだ。


ーいや、寧ろ私の方が、息子と会えない時間を寂しいと感じている、という謎の自信がある。


だからこそ、私も会える日まで頑張ろうと思えるのだ。


セフィ「それに、今日はジュピターとマーズが遊びに来てくれたんだよ!しかも、暫く泊っていってくれるって!」


ジュピター、そしてマーズ。


彼らは、人間には星竜種と呼ばれる竜で、普段は空の彼方ー宇宙に居る。


親友同士だという二体は、偶に地上に降りてきては、地上の竜と話す事が趣味らしい。


私の昔馴染みで、今は息子の遊び相手だ。


彼らよりも、私の寿命の方が圧倒的に短い。


なので私は、いずれは私の子孫達の世話を彼らに任せるつもりでいる。


この事はまだ彼らには言っていないが、彼らなら快く引き受けてくれる事だろう。


ホワイト「そう。なら、存分に遊んで貰いなさいな。あとお母さん、明日には仕事に行っちゃうの。だけど、明日が終われば暫くお暇をもらえる事になったわ」


アルト「ほんと!?じゃあ、じゃあね、ぼく飛ぶ練習する!絶対見てね!教えてね!約束!」


ホワイト「ええ、約束」


私は、嘴の先を息子のそれと軽く合わせる。


かつ、と音が鳴れば、それが約束の合図。


人間で言う所の”ゆびきり”である。


ホワイト「じゃあ、今日は夜までお話ししましょう」


アルト「やった!あのねあのね、フォルク様がね・・・」


息子を背に乗せ、我が家への道を行く。


息子と、他愛もない会話をしながら。


・・・この時の私は知らない。


この約束が、決して果たされない事を。


そしてー主の言った、”暫くの暇”の本当の意味を・・・。
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