EXTRA

□カードキャプターしのぶ クロウカード編
2ページ/105ページ


その女の子は、夢を見ていました。


不思議な不思議な夢でした。


(だれ?私を呼ぶのは・・・)


誰ともつかぬ者に、女の子は問いかけました。


もちろん、返事はありません。


まず最初に、不思議な本が見えました。


不思議な模様の書かれた、鍵付きの本です。


それが開くとともに、女の子は次の風景に導かれました。


月の無い夜でした。


女の子の目の前には、赤い塔がありました。


女の子はとても幼いですが、その塔の事は知っていました。


何しろその塔は、日本人なら知らない人の方が少ない”東京タワー”だったのですから。


夢の中の女の子は、その”東京タワー”が見えるビルの上にいました。


手には、羽根飾りのついた鳥の頭の様な可愛い杖があって、周りには不思議な絵の描かれた、18枚のカードが浮いています。


そして目の前の地面の無い所に、一人の男の人が立っているのです。


「――――」


女の子の口が、ひとりでに動きました。


男の人が、少しだけ少女の方に振り返ります。


男の人は恐ろしく整った顔をしていて、吸い込まれそうな蒼い瞳が綺麗だな、と女の子は思いました。


女の子の靴に羽が生え、女の子は自ら、ビルを飛び降りました。





しのぶと不思議な魔法の本


「わーっ!?」


閑静な住宅街の一軒家に、少女の悲鳴が響き渡る。


しかし、悲鳴が止んだ後に響くのは、彼女自身が掛けていたアラームの音だけ。


「何だ、この音かぁ・・・」


カチ、とその頭を押してやると、目覚まし時計は沈黙し、部屋に再び静寂が戻る。


くああ、と欠伸をする少女を、階下から呼ぶ声がした。


「しのぶ〜、朝ごはん出来てるわよ〜」


しのぶ「あっ、はーい!」


少女の名は胡蝶しのぶ。


ここキメツ町にある、キメツ学園の初等部4年生。


好きな科目は体育と化学。


嫌いな科目は国語ーと言っても苦手くらいだが。


取り合えず、勝気が凄い女の子である。


家族構成はー。


しのぶ「おはよう、お姉ちゃん!」


「おはよう、しのぶ。今日もしのぶは可愛いわね〜♪」


支度を終えて降りて来たしのぶを、彼女より少し大きな少女が抱きしめ、頭を撫でた。


彼女の名前は胡蝶カナエ。


しのぶの3つ上のお姉ちゃんであり、同じ学園の中等部に通う1年生。


いつも姉バカを炸裂させているシスコンであるが、本人は決して否定しないし、何ならシスコンは誉め言葉である。


しのぶ「も、もう、お姉ちゃん!いつもいつも、抱きつくの止めてよ!はずかしい」


カナエ「そうはいっても・・・しのぶが可愛すぎるんだもの〜♪」


もうしのぶも、こう言った物に気恥ずかしさが出る年頃なので、最近は嬉しくなる事より参る事の方が多い。


一方の姉は、そんな時期などまるで存在していないかのよう。


本来なら思春期真っ只中の筈なのだが、それよりもしのぶへの愛が勝るらしい。


しのぶ「そうだお姉ちゃん、お父さんは?」


カナエ「また朝から講義の準備ですって。教授って結構大変よね〜」


彼女達には、当然の事ながら両親がいて、父親は大学の教授として、毎日忙しく働いている。


家に居ない事も多いが、姉妹は父の事が大好きだ。


一方の母親は、しのぶが3つの頃死去している。


だけれども、しのぶは寂しくないと胸を張って言えた。


父もいるし、ちょっと愛が重いけど姉もいる。


しのぶは、自分が十分幸せであると感じているのだ。


カナエ「そろそろ行くわよ〜」


しのぶ「はーい!」


姉手製の朝食を終え、愛用のローラーブレードを履いて、しのぶは姉と共に家を出た。


カナエ「やっぱり、これで登校すると風が気持ちいいわね〜」


しのぶ「今年も禁止されなくて良かったね、お姉ちゃん」


カナエ「そうねぇ。これで危険運転でもしない限り、禁止される事も無いでしょうね」


しのぶ「これで危険運転って、どうやるの・・・?」


ローラーブレードで通学路を駆ける二人は、桜吹雪に包まれていた。


その幻想的な風景に感嘆しつつも、そんな緩いやり取りは欠かさない。


そしてその道中、姉妹はいつも同じ場所で、同じ人と遭遇する。


カナエ「あっ、縁壱先輩!」


カナエが名を呼ぶと、たった今十字路から姿を現したその人物は、小さく手を振って返事をした。


彼の名は継国縁壱。


カナエの一個上の先輩で、同じ学園に通っているご近所さんである。


その傍には自転車の姿もあるが、歩道にいる為乗らずにいたようだ。


カナエ「縁壱先輩、おはようございます!」


しのぶ「おはようございます!」


縁壱「おはよう、カナエ、しのぶ」


昔馴染みである3人の仲は良く、普段表情が動かず寡黙な彼も、彼女達の前では僅かに微笑む。


この場で合流する事は特に打ち合わせている事でも無かったが、大抵3人はここで合流し、共に学校に行くのが定番となっている。


しのぶは、二人と共にいられるこの時間が好きだった。


けれども、しのぶは知っている。


時は何時だって、自分を置き去りにしていくのだ、と。


縁壱「またな、しのぶ」


しのぶ「え?あ・・・」


彼等の通う中等部と、しのぶの通う初等部の校舎は別々である。


彼女達の家からは前者の方が近い為、しのぶだけここで別れなければならなかった。


ここは高等部も一緒だが、3つ以上違う彼らと同じ校舎にしのぶが行く事は無い。


カナエ「寂しがらなくても大丈夫よ。帰りにはまた会えるわ。寝ないで授業受けるのよ。じゃあね」


カナエはしのぶの手を握り、何かを手渡してその場を去って行く。


縁壱もその後に続き、中等部の校舎に入って行った。


しのぶは手の中の飴玉を見つめ、不満げに唇を尖らせる。


早く大人になりたい。


姉の様な素敵な女性になりたい。


そんな思いを燻らせたまま、飴玉を口に放り込んだ。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ