EXTRA
□カードキャプターしのぶ クロウカード編
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その女の子は、夢を見ていました。
不思議な不思議な夢でした。
(だれ?私を呼ぶのは・・・)
誰ともつかぬ者に、女の子は問いかけました。
もちろん、返事はありません。
まず最初に、不思議な本が見えました。
不思議な模様の書かれた、鍵付きの本です。
それが開くとともに、女の子は次の風景に導かれました。
月の無い夜でした。
女の子の目の前には、赤い塔がありました。
女の子はとても幼いですが、その塔の事は知っていました。
何しろその塔は、日本人なら知らない人の方が少ない”東京タワー”だったのですから。
夢の中の女の子は、その”東京タワー”が見えるビルの上にいました。
手には、羽根飾りのついた鳥の頭の様な可愛い杖があって、周りには不思議な絵の描かれた、18枚のカードが浮いています。
そして目の前の地面の無い所に、一人の男の人が立っているのです。
「――――」
女の子の口が、ひとりでに動きました。
男の人が、少しだけ少女の方に振り返ります。
男の人は恐ろしく整った顔をしていて、吸い込まれそうな蒼い瞳が綺麗だな、と女の子は思いました。
女の子の靴に羽が生え、女の子は自ら、ビルを飛び降りました。
しのぶと不思議な魔法の本
「わーっ!?」
閑静な住宅街の一軒家に、少女の悲鳴が響き渡る。
しかし、悲鳴が止んだ後に響くのは、彼女自身が掛けていたアラームの音だけ。
「何だ、この音かぁ・・・」
カチ、とその頭を押してやると、目覚まし時計は沈黙し、部屋に再び静寂が戻る。
くああ、と欠伸をする少女を、階下から呼ぶ声がした。
「しのぶ〜、朝ごはん出来てるわよ〜」
しのぶ「あっ、はーい!」
少女の名は胡蝶しのぶ。
ここキメツ町にある、キメツ学園の初等部4年生。
好きな科目は体育と化学。
嫌いな科目は国語ーと言っても苦手くらいだが。
取り合えず、勝気が凄い女の子である。
家族構成はー。
しのぶ「おはよう、お姉ちゃん!」
「おはよう、しのぶ。今日もしのぶは可愛いわね〜♪」
支度を終えて降りて来たしのぶを、彼女より少し大きな少女が抱きしめ、頭を撫でた。
彼女の名前は胡蝶カナエ。
しのぶの3つ上のお姉ちゃんであり、同じ学園の中等部に通う1年生。
いつも姉バカを炸裂させているシスコンであるが、本人は決して否定しないし、何ならシスコンは誉め言葉である。
しのぶ「も、もう、お姉ちゃん!いつもいつも、抱きつくの止めてよ!はずかしい」
カナエ「そうはいっても・・・しのぶが可愛すぎるんだもの〜♪」
もうしのぶも、こう言った物に気恥ずかしさが出る年頃なので、最近は嬉しくなる事より参る事の方が多い。
一方の姉は、そんな時期などまるで存在していないかのよう。
本来なら思春期真っ只中の筈なのだが、それよりもしのぶへの愛が勝るらしい。
しのぶ「そうだお姉ちゃん、お父さんは?」
カナエ「また朝から講義の準備ですって。教授って結構大変よね〜」
彼女達には、当然の事ながら両親がいて、父親は大学の教授として、毎日忙しく働いている。
家に居ない事も多いが、姉妹は父の事が大好きだ。
一方の母親は、しのぶが3つの頃死去している。
だけれども、しのぶは寂しくないと胸を張って言えた。
父もいるし、ちょっと愛が重いけど姉もいる。
しのぶは、自分が十分幸せであると感じているのだ。
カナエ「そろそろ行くわよ〜」
しのぶ「はーい!」
姉手製の朝食を終え、愛用のローラーブレードを履いて、しのぶは姉と共に家を出た。
カナエ「やっぱり、これで登校すると風が気持ちいいわね〜」
しのぶ「今年も禁止されなくて良かったね、お姉ちゃん」
カナエ「そうねぇ。これで危険運転でもしない限り、禁止される事も無いでしょうね」
しのぶ「これで危険運転って、どうやるの・・・?」
ローラーブレードで通学路を駆ける二人は、桜吹雪に包まれていた。
その幻想的な風景に感嘆しつつも、そんな緩いやり取りは欠かさない。
そしてその道中、姉妹はいつも同じ場所で、同じ人と遭遇する。
カナエ「あっ、縁壱先輩!」
カナエが名を呼ぶと、たった今十字路から姿を現したその人物は、小さく手を振って返事をした。
彼の名は継国縁壱。
カナエの一個上の先輩で、同じ学園に通っているご近所さんである。
その傍には自転車の姿もあるが、歩道にいる為乗らずにいたようだ。
カナエ「縁壱先輩、おはようございます!」
しのぶ「おはようございます!」
縁壱「おはよう、カナエ、しのぶ」
昔馴染みである3人の仲は良く、普段表情が動かず寡黙な彼も、彼女達の前では僅かに微笑む。
この場で合流する事は特に打ち合わせている事でも無かったが、大抵3人はここで合流し、共に学校に行くのが定番となっている。
しのぶは、二人と共にいられるこの時間が好きだった。
けれども、しのぶは知っている。
時は何時だって、自分を置き去りにしていくのだ、と。
縁壱「またな、しのぶ」
しのぶ「え?あ・・・」
彼等の通う中等部と、しのぶの通う初等部の校舎は別々である。
彼女達の家からは前者の方が近い為、しのぶだけここで別れなければならなかった。
ここは高等部も一緒だが、3つ以上違う彼らと同じ校舎にしのぶが行く事は無い。
カナエ「寂しがらなくても大丈夫よ。帰りにはまた会えるわ。寝ないで授業受けるのよ。じゃあね」
カナエはしのぶの手を握り、何かを手渡してその場を去って行く。
縁壱もその後に続き、中等部の校舎に入って行った。
しのぶは手の中の飴玉を見つめ、不満げに唇を尖らせる。
早く大人になりたい。
姉の様な素敵な女性になりたい。
そんな思いを燻らせたまま、飴玉を口に放り込んだ。