リクエスト企画

□雨の匂い
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『くしゅんっ……』


市役所に着いた瞬間、彼女は小さくくしゃみをした。
その可愛らしいくしゃみの後、彼女は恥ずかしそうに僕に笑いかける。

『流石に……こんなに濡れちゃうと寒いですね』

「……僕は寒くないけど、人間は体温が奪われちゃうからね」


従者の二人に頼んでタオルを持ってきてもらう。
二人とも、まず僕を拭こうとするから、先に彼女を拭いてやってとお願いした。


『じ、自分で拭けます』


チェスからタオルをもらうと、遠慮がちに髪を拭く。どうやら、吸血鬼に髪を拭かれるというのは緊張するようだ。

だが、彼女はモタモタとしていて、あまり拭けてないように思える。

「……風邪ひくよ」


僕はしゃがみ込み、彼女の頭の上で強めにタオルを動かした。

『わっ……じ、自分で……』

「いいから……こっちの方が早い。……あと、服も新しいのが必要だね」


従者の二人は不思議そうにこちらを見て、ホーンがようやく、僕に質問してきた。


「あの…クローリー様……その子は……」

「奏実って言うんだ。……これからこの市役所で一瞬に暮らす」


その言葉に、チェスも目を丸くした。


「えぇー!?人間とですかぁ!?」

「そ、それはまたどうして……」


正直、自分でも理由は全くわからない。普通なら、人間を見つけたら人間たちを管理してる場所へ連れて行くんだけど……


僕は奏実を覗き込む。


すると、彼女も僕をじっと見返した。綺麗な瞳を持った彼女。なんとなく、このまま一人にしておけば危なっかしい気がする。何も考えずに外へ飛び出すような子供だ。


「深い理由はないよ。ただ……一緒に居たいと思ったから」


そんな理由で従者二人が納得するわけないと思ったが


「まぁ……クローリー様が連れてきたなら、優しくしてあげないとねー。奏実って言うの?よろしくね」


チェスは奏実の頭をぽんっと撫でた。


「そうですね。……あまりクローリー様に迷惑をかけてはいけませんよ」


ホーンも納得してくれたようだ。


奏実はきょとんとして、2人を見る。


「二人とも、奏実が市役所で一緒に暮らすことを許してくれるみたいだよ」


『……一緒に……』


奏実は小さく呟いたあと、遠慮がちにふわりと笑う。


『……ありがとうございます』



その笑顔は、彼女をここに連れてきて良かったと改めて思わせるほど、心温まる笑顔だった。






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