リクエスト企画

□愛して欲しい
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生まれて、物心ついた頃から実験体だった。

"終わりのセラフ"

禁忌を犯した実験。
とだけ聞かされていて、私は外の世界をほとんど見たことがなかった。

暗い部屋で、いつもと変わらない食事を与えられ、血を抜かれ、薬を入れられ

それが当たり前だった。

時折、娯楽が与えられることがあり、本を読むことがあった。
大切に育てられたお姫様が、王子様と恋をするようなお話。


何もかもが理解できなかった。

愛を受けて育つとはなんなのか……
他人に愛をもらうとはなんなのか……

誰からも、自分の親からさえも愛をもらったことのない私には、何一つ理解できないお話だった。

友達もいない。
話す相手は、実験をしている科学者たちだ。
しかしそれも、体の調子を聞かれるだけ。
私の存在意義とはなんなんだろうか……
なんて考えることさえ馬鹿らしかった。

きっと私は、愛なんて知らないまま、この薄暗い部屋で一人で死を迎えるんだ。

『来世は…愛を知れる人間に生まれたいな』


笑ってしまうほど、小さな願い。
人間に生まれれば誰しも愛を知れるものだと思うはずだ。
誰にも愛されない人間なんて…

私だけなんじゃないか。


『早く…来世来ないかなぁ……』


来世に期待すればするほど、私はどんどん命がどうでもよくなってきた。
早く……この命を絶ちたい。

監視カメラのせいで自殺はできないし、変な動きをすれば直ぐに拘束される。

死を選べないこんな毎日、いつまで続くのだろうか。

王子様から愛なんて貰いたいとは思わない。
私を殺してくれる王子様が現れてはくれないだろうか。

そうすればきっと……

私は自由を手に入れる。


この暗くて苦しい世界から、解放される。

そんなことを毎日思いながら、時計もない部屋で1日を終える。


今日もきっと、何もない。
ご飯が運ばれてきて、血を抜かれて……


私はふと、扉の方へ近づいた。

違和感に気付く。
いつもなら……
起きてこの時間にこの扉が開いて……ご飯が運ばれてくるのに……


時計はないと言ったが、身体が覚えている。
起きる時間も寝る時間も固定され、身体が本当に実験をするためのものに変えられたように……


『おかしいな……』


扉にゆっくり耳をつける。

すると、奥の方で微かに爆発音が聞こえる。

実験の失敗か?

私はぐっと神経を研ぎ澄ませた。

すると、コツコツコツ……と足音が聞こえる。
科学者たちの足音?
いや……少し違う気がする。

私は少し怖くなって、扉からゆっくりと離れた。


こんなこと今までなかった。
イレギュラーな展開は、身体が受け付けない。

扉から一番離れた壁に背中をぶつける。

怖い……

何が起こってるんだろうか……


そう思った時

ガシャン!!


と耳に響く大きな音を立て、扉が壊れた。


壊れた扉から、ゆっくりと入ってきたのは……


見たこともない男だった。





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