リクエスト企画

□真実を知った先で
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吸血鬼とは、都合のいいものなのかもしれない。
辛い記憶、苦しくて受け止めきれなかった真実を
時間が緩和してくれるのだ。

仲間を皆殺しにした。それが許されることだなんて思ってない。
でも、思い出してしまったあの時から、心の傷は随分と癒えてしまった気がする。
そんな自分に腹が立って、何度も自分の命を絶とうとした。
それを許してくれなかったのは彼だった。


「そろそろ諦めろ。……私がいる限り、奏実は死ねない」

『……罪悪感を忘れていく。仲間の声が耳から離れないくせに、それをなんとも思わなくなってくる』

ウルドはそれを聞くと、少しばかり苦い顔をしてこちらを見つめる。


「それが吸血鬼だ。これから何千年と生きるのに、罪悪感を抱えたままなんて苦しいだろう」

『罪悪感を抱えたまま生きる方がマシだった…』

そんな私を、ウルドは優しく…抱きしめてきた。
そんな優しさに触れれば、苦しさが溢れてくる。
幸せだと思ってしまう。
今の欲望に忠実になりたいと思ってしまう。


「奏実……愛してる」

『ウルドは……ずるい……』


私も、抱きしめ返してしまう。
私も大好きなんだ。彼のことが……
だからこそ、あんな結果になってしまったんだ。


あれから7年ほど経った。
吸血鬼になってから、時の流れは早い。
この7年、何度も死ぬことを試みた。時にはやり方だって選ばなかった。

このロシアには、度々第三位始祖のレスト・カー様が来る。
私は彼を利用してやろうと思った。武器も持ってなかった私は、素手でレスト様に飛びかかる。


私の力は、所詮第七位始祖程度だ。簡単に避けられ、組み敷かれた。こんな小さな体に押し倒されるのか……
吸血鬼は凄いな……と思いながら、殺されるのを待った。


「…ギールス様のお気に入りだろ。殺せるわけない」


そこの根回しもウルドは怠らなかったようだ。
他の吸血鬼にも、自分のお気に入りだ、手を出すなと言い聞かせているようで……

他の吸血鬼から手を出されることはなかった。


そして、7年経った今、私は死ぬことさえどうでもよくなっていた。
ウルドの側にいることが、ただ幸せだと思うようになって、彼について行こう。そう決めた。

まだ罪悪感は心の奥底にある。
だが、もうそれで心が壊れそうになるなんてことはなかった。


吸血鬼になってからは、鬼とも会話ができなくなった。
鬼呪装備はあるのだが、ただの日本刀のように鬼呪は発揮されない。

外に出ることもあまりなかったため、武器は必要なかった。
だが、ある日……
私が住んでいるロシアの聖堂は慌ただしくなり始めた。



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