short(旧)

□◎貴方が見ているもの
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ギィィィィ……


真っ暗な闇の中、重い扉が開かれる音。私はこの音が嫌いだ…
ゾクリと体が震え、目を瞑って身体をぐったりとさせた。

カツン…カツン…


足音は私の目の前で止まる。



「…………寝てるの?」



反応なんてしない。
早く……何処かへ行ってくれ……
目を瞑ったまま、ピクリとも動かずにいた。


「かなみは嘘が下手だね」


そんな声が聞こえ、私の手首は掴まれた。
グンッと上に持ち上げられるが、私は意地でも目を開けない。

寝たふりを突き通せば……すぐに何処かへ行って……


「起きないなら……このまま吸おうか」

脅しだとわかっていても、額に汗がにじむ。


『……』

「あはは、やっぱ吸血は嫌い?そこまで嫌な顔するなんて」

バレてしまったようだ……

私は仕方なく目を開け、目の前にいる吸血鬼を睨み付ける。

『殺すなら殺せばいいでしょ……こんなところに閉じ込めて……』

真っ暗な地下牢。
足には鎖が繋がれ、逃げることは絶対にできない。

「かなみを気に入ってるんだ。殺しも逃しもしない」


手首を掴む手に力が入る。

ミシミシと骨が軋んだ。


『っ……痛いっ……』

「……あはは…そうやって痛がる顔も本当に可愛い。……吸ってる時は表情見えないからなぁ」

手首を握る力は弱まらず、そのまま折れてしまうのではないかと恐怖が襲う。

『っ……もう……許してよ……牙痕だらけで……身体もボロボロで……』


首筋には沢山の牙の痕があり、新しいものから古いものまで、無数にある。
全てこれは、彼に付けられたものだった。


「今日は手首からにしようか……それならかなみの顔も見ながら吸えるしね」


クローリーは、私を一度床に落とすと、そのまま壁に追いやる。

冷たい壁に、背中が当たり逃げ場は無くなった。


『いや……いや……』


首を振って彼を拒絶した。

こんなことをしても、彼の欲望に勝てるわけないのはわかっている。
でも……


『許して……』


涙が溜まった瞳を彼に向ければ、彼は嬉しそうに笑う。


「煽らないでよ。……止められなくなるだろ」


手を掴んで勢いよく手首に噛み付いてきた。


『ひっ……』



鋭い痛み。
自分の手首から溢れ出す血が瞳に映る。
赤く…透き通った綺麗な血が……
手首を伝って地面へと落ちた。


クローリーは目を瞑り、美味しそうに吸血をしている。

怖い……

嫌だ……


『は、離してっ……いやっ……』


手を引こうとしても、彼に掴まれた腕はビクともしない。



ゆっくり彼の瞳が開いて、私の方を見た。

彼の赤い瞳に映るのは、怯えきった私の姿だ。


『……いや…………』


怖くて力が抜けた時、クローリーの牙が私の手首から抜けた。


「はぁ……美味しかった。本当にかなみは可愛い顔で僕を見てくれるね。…危うく吸いきっちゃうところだったよ」


唇についた私の血をぺろりと舐め、私の頭に手を置く。


「逃がさないよ。…ずっと僕の元で、怯えていて?……その血が大好きなんだ」



彼の笑顔は、私にさらに恐怖を与えた。


逃げられない。

これからも……

この恐怖とともに彼の元で……



絶望仕切った目で彼を見上げた。






貴方の目に映るものは……


怯えた私。


貴方が見ているものは……


一生……怯えた私なのだろうか。













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