short(旧)
□◎可愛い君
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ドイツには沢山のお城や聖堂がある。昼間はその観光に明け暮れ、夜は少し観光地から離れた静かなホテルで泊まることになっていた。
私は机に溜まった仕事の資料と向き合い、ため息をつく。今回の舞台はドイツにしようとしたが……なかなか良い話が浮かばない。
『……少し散歩でもするか』
私の仕事は、小説を書くことだった。今も幾つか本を出していて、次の新作はこのドイツが舞台の話にしようと思い、旅行に来たのだ。
ホテルの近くには、小さな公園があった。こんな夜には、誰もいないようで……私はその公園のベンチに腰掛ける。その時、ガサッと草むらから音がした。私はビクリと震え、音の方を見る。すると……
『……え……』
草むらから出てきたのは、小さな男の子。目がくりくりとしていて、髪は二つくくりの三つ編みだ。とても可愛い。
『僕、どうしたの?迷子?』
私はベンチから立ち上がり、ゆっくりその男の子に近付いた。ドイツ人だろうか?目が赤い気がする。日本人ではないな……
そう思って、男の子の頭に手を伸ばす。
「……僕に話しかけるな。下等な人間め」
パチンッと手を叩かれ、睨みつけられた。
なっ……
か、可愛くない!
『な、なによ……子供がこんな夜遅くに出歩いちゃダメでしょ?お母さんは?』
「次で最後だ。ここから失せろ」
くりくりした目を持つ男の子は、更に鋭くこちらを睨みつけた。
ちょっと怖い……
『わ……分かったわよ。暗いから気をつけなさいね』
私は彼の頭をポンポンと撫でる。帽子をかぶっているので、その上から……
ガッ
その手は急に掴まれ……
強く力を入れられた。子供の力とは思えない程で、私は激痛を覚える。
『い、痛っ……』
「僕に触れるなんていい度胸だ」
私は自分の手首を見る。掴まれた腕に爪が食い込み、血が流れていた。
『痛い……離して……』
「……血の匂いは悪くないな。よし、ただ殺すのも勿体無い。吸ってやろう」
そう言って、私は強い力で体を押された。どんどん後ろに傾き、地面に背中が打ち付けられる。
『ぐっ……』
子供の力か!?これは……
上に乗られ、もう身体がビクともしない。
「はは……さっきまで子供扱いしていたのにね。いい怯えっぷりだよ」
『な……なんなの……貴方……』
怖い……
子供だと思ってたけど……
普通の子供じゃ……
「僕?……僕は……吸血鬼だよ」
彼の口が開いて、そこから鋭い牙が見えた。
『ひっ……』
そして、私の首筋にがぶりと噛み付いた。感じたことない痛みが首を突き刺す。その後、ギュルギュルと体から血が抜かれる感覚を覚えた。
『いやっ……やめてっ……いやぁ!』
小さな体を押すが、全然動かない。なんて力……このまま……血を……全て……
身体の力が入らなくなってきた時、私の首筋にあった痛みは急になくなる。
「……へぇ……こんな美味しい血持ってるんだ。気に入った。僕専用の家畜にしてあげる」
ボーッとする。
そのまま彼を見つめると、彼は可愛らしく笑う。
「子供扱いした罰に……沢山虐めてあげるね」
その子供のような無邪気な笑みは、私の虚ろな目に深く焼きついた。
【end】