request(旧)
□君の歌声
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♪♪♪♪♪〜
♪♪♪♪♪〜
透き通った歌声だった。
引き寄せられるような甘い香り。
何もかもが、自分をその方向へと導いているようだった。
「日本も悪くないな…」
そう口から漏れた言葉は、暗闇の中に消えていく。
そして、ウルドはようやく、歌声の主を目にすることができた。
草原に座り込み、楽しそうに空を見上げている女の子。
綺麗な高音を響かせ、鼻歌を歌っている。
ウルドは物音をたてないよう、彼女に近づいた。
『…………誰?』
だが、彼女はとても鋭かった。
音を立ててないから、何故わかったのかというと気配だろう。
気配もそれなりに消していたはずだが……
ウルドは観念したように、茂みからゆっくりと出てきた。
「……綺麗な歌声だったから、つい惹かれてしまった」
彼女は怖がるだろうか?
急に現れたのが、目の赤い、耳の尖った、鋭い牙を持つ吸血鬼だったら……
『……あら、私…歌ってました?夜に歌うのはよくないんですけどね。蛇が出るって聞きました』
彼女は可愛らしくウルドに笑いかける。
「……蛇が怖いのか?」
『そりゃあ怖いです』
「じゃあ……私は怖くないのか?」
『……貴方をなぜ怖がる必要が?』
彼女は暗くて見えていないのだろうか?
ウルドはゆっくりと彼女に近づく。
すると、より一層甘い香りが強くなる。
「……吸血鬼が怖くないのか?」
『あは……やっぱり人間じゃないですよねぇ』
彼女はウルドを見上げて、ヘラッと笑って見せた。
どうやら、怖くないようだ。
「隣……いいか」
『どうぞ』
草原に腰を下ろし、彼女とは数センチ距離を開けて座った。
「何をしていた」
『天体観測です。……星を見てました』
彼女は再び、目線を空へと上げる。
ウルドもそれにつられ、ゆっくりと空を見上げた。
見上げた先には、無数の星が輝いていて、暗闇を歩いていた自分には少し眩しいと思うほどだった。
「……名前は?」
『星の?』
「君のだ」
『あはは…………』
彼女はとぼけたように笑って、ふぅと息を吐いてから答えた。
『柊かなみです』
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