short(旧)

□◉優しい彼
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シュンッ





鬼呪装備の矢が、私の頬をかすめた。




『っ……』



ツーッと頬に血が滴る。





傷が塞がらない。



これが鬼呪の力か。




私は矢が飛んできた方へ身体を傾ける。





そして一呼吸すれば




矢を放った張本人のところへひとっ飛びだ。




「……っ」



あら、意外と可愛い顔。




ドタンッ




私はその彼を押し倒す。



『どーも。私を狙ったのは君かな?』



「う……うん……外したけど」



こいつ……


力は圧倒的に……弱い……




『そうねー……もう少し落ち着いて狙うべきだったんじゃないかな』




「あはは……優しいんだね。そんなアドバイスくれるなんて」



へらへら笑って……



こいつ自分の状況わかってるの?




『怖くないの?……今から君の首に牙をぶっさして血を吸うかもしれないよ』



「んー……こうなったのは……僕に力がなかったから……」



諦めるってこと?




『まぁ……バタバタ騒がれるよりマシだけどね』



「でも……僕たちの仲間は強いよ」





っ……




その瞬間、近くまで仲間が来ていることに気付いた。




「逃げた方がいいと思うけどなぁ……僕らの仲間…すごく強いし仲間想いだから」




『私の心配してくれてる?』




「まぁ……ここまで吸血鬼と喋ったのって初めてだから」



私はふわりと彼の肩に口を近づける。




「えっ……」


『悔しいから少し吸ってやる』



「うぅ……」




彼の肩を軽く噛む。



柔らかい肌に簡単に入ってしまう牙。



ふぅん……



悪くない血だ。



でもそろそろやばい。




私は彼から離れる。




『ふふふ……君、なんか殺し甲斐なさそうだから生かしてあげるね』



「あ……ありがとう」



肩を抑える彼。




「今度は君にしっかり当てられるようにするね」



彼は……


優しいのだろう。



『当てられるもんなら当ててみな。次は殺してあげる』




なんだか今殺すのは惜しい。


彼はもっと強くなりそうだ。



その時に相手をしてあげる。



彼の目は優しい……



吸血鬼にはいない……そんな目だ。




『ではでは……』




人間の優しさ……



不思議なものだと思い口を拭った。
 

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