FINAL FANTASY 6

□Way of life
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「ともかく」

セリスの戸惑いを置き去りにして、マッシュは手を一つ叩いた。小気味いい音が、広い空間に響く。

「仲間なんだ、変な気を回すなよ」

唇が弧を描き、瞳が了承を促している。マッシュは友好的に笑んで、曇りのない視線をセリスに向けた。

「あんだけ怒ってたカイエンだって、もうきちんと割り切ってる。俺だって帝国は許せねえけど、そこから抜けてきたっていうんなら、あんたは俺たちと同じだと思ってる」
「貴殿らと……同じ?」
「ああ。同志ってヤツだな。ここまでの道のりは違ったけど、目指すところは同じだって信じてるから」

未だに表情が堅いセリスと違い、旧知の仲であるかのようにマッシュは穏やかに話す。無理をしたり、憤りを隠すように精一杯努めていたり、そういう雰囲気は見受けられない。つまり、これは彼の自然体。嘘ではない本音をセリスに伝えている証だ。

「わだかまりはすぐには消えないかもしんねえが、ここから先は恨みっこなし。仲良くやろうぜ」

目の前に差し出されたのは、太く堅そうな指が並んだ大きな右手。少しの逡巡の後、セリスはその手をとった。
ごつごつとした感触が、ふんわりとセリスの白い肌を包む。もっとがさつな握手が待っているとばかり思っていた。けれど、感じたのは痛いまでの握力ではなく、守られているような安心感。

ああ、ここは違うんだ。

直感が身体を駆け抜けた。今までのように気張る必要はない。この安堵感に心を委ねても、きっと裏切られることはないのだ。
だからといって、初対面の人間に素も粗もさらけ出せるほど唐突に心を開く気にはなれない。己の生き方すべてをひっくり返すには早急すぎて、今はまだ。

「……私も、すぐには変われない。態度にしろ、言葉にしろ、今まで何年もこうして生きてきた。
しかし、貴殿が……貴殿らがそう仰せられるのであれば善処しよう」
「ああ。方法の無理強いはしないから、あんたの好きなようにして俺たちに慣れていってくれ」
「お心遣い、痛み入る」
「お互い様さ」

じゃあ、と手を挙げて、マッシュは割り振られた客室へ歩を進める。
その姿を見送ると、再び、ひとりきりの空間。セリスはソファに体を沈め、ぼんやりと視線を上げる。目に映る広い天井は、今しがた見送った大きな背中を彷彿とさせた。

「……大きいな。彼も、ドマの剣士も、ロックも……ここにいるすべての者が」

その大きさに、ことごとく救われた。一度は潰えることを覚悟した命だというのに、まだここにある。
生き長らえた自分の進むべき道が、見えてきた。自ら翻した反旗を高く掲げ、ガストラ帝国の暴走を食い止めること。軍に属していたうちに犯した過ちの贖罪として、彼らと共に戦うこと。
これだ、とセリスは思った。命の置き場所を探し当てた。
窓際のしんと冷えた空気が、やけに清々しくて心地好い。ふと外を見れば、空からの雪はもう落ちてきていなかった。





(了)
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