企画・小ネタ

□Fate詰め合わせ
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■Twitterトレンド「今日はキスの日」に便乗した雁桜



そっと彼女の額に口づけると、なんだか可笑しそうにくすくすと吐息が聞こえてきた。
「な、なんで笑うの? なんか変だった?」
「ううん、違うんです。キスって場所によって意味が違うんですけど、おじさんってよくおでこにキスしてくれるなあって」
言われてみれば、彼女の赤い魅惑的な唇に触れるのが照れくさいときには半ば無意識的に額に口を寄せている気がする。今がちょうどそうであったように。
「へえ、おでこはどういう意味なんだい?」
「友情」
「ゆっ……」
友情って。予想外すぎるワードに、目が点になる。
「あーあ、さみしいなー。わたし、おじさんにお友だちだと思われてるんだなー」
「ち、違っ、違うんだって桜ちゃん! そんなわけないだろう!」
つーん、と拗ねたように頬を膨らませて唇を突き出す年下の恋人に、すっかり慌てて首を振る。それが彼女の本気の不機嫌ではなくからかわれていることは薄々感づいてはいるが、それでもこうして反射的に焦ってしまうあたり、精神年齢ではどれだけ彼女に歳の差を埋められているのだろうか。
案の定、父親ほどの年齢の彼氏を振り回して満足したのか、桜は表情を一変させた。にんまりと緩む頬は、まるでいたずらを思いついた子どもだ。かわいい。
「じゃ、証拠を見せてください」
「証拠?」
「わたしが雁夜おじさんにとって友達じゃなくて何なのか、っていう証拠です」
ははあ、なるほど。キスする場所で示せ、ということなのだろう。部位によって意味が違うということすら今初めて知ったのに、なかなか手厳しい。
とはいえ、だいたい想像がつく。これ以上ない愛しい恋人への愛情を示す場所といえば、相場は決まっている。これがもし手やら頬やらであれば、たとえば西洋人の挨拶の文化も変わってくるはずだ。
(それに、やられっぱなしじゃ格好つかないしな)
羞恥心より、男のプライドに火がついた。
「桜」
あえて低く呼び捨てにして、彼女の動揺を誘う。小ぶりな顎に人差し指をかけると、何かを言おうとした可憐な唇を塞いだ。
「ん、……っ」
これ以上ないほどの至近距離でぱちぱちとまばたきをする真ん丸な両目に笑いをこらえながら、唇を啄み、舌を滑らせる。驚いて固まった彼女の舌を見つけてぺろりと掬い取れば、しなやかな身体はぴくんと揺れ、澄んだ瞳がぎゅっと下りてきたまぶたによって隠された。かわいい。
「ふ……ぅん、んっ」
しばらく固い舌と柔らかな口腔の感触を舌先で楽しんで、それから唇を離す。やっと解放された彼女の息が軽く上がっていて、勝ち誇ったように尋ねてみる。
「どうかな? 証拠になった?」
「……ズルいです、おじさん」
「ノーヒントでクイズを出してくる桜ちゃんに言われたくないけど?」
真っ赤な顔で恨めしそうにこちらを見る瞳に言い返した。たまには落ち着いた大人の余裕も見せつけておかないと、年上の沽券に関わる。
……と見せかけておきつつ、頭の中では、キスの最中に漏れ聞こえた艶っぽい吐息に焚きつけられた欲望と火消し役の理性が激闘を繰り広げているのだった。



(2020.7.21 ピクモフ内ピクログより)
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