FINAL FANTASY 6

□砂漠の住人
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砂漠を人間の足で移動すると、思うように動けず体力は奪われるわ、平原を歩く何倍もの時間がかかるわ、目にも口にも襲いかかる容赦のない砂嵐に精神的に参るわ、とにかく大変な労力がいるからチョコボが活躍する。特に、岩石砂漠ではなく砂砂漠のど真ん中に位置する王国フィガロの住民なら誰でも幼いうちに騎乗の練習をするし、チョコボ自体もよく調教された優秀な個体がたくさん飼い慣らされていた。
だから、マッシュにとってはチョコボの騎乗はごくごく当たり前、生活の一部、一般常識ともいえるものなのだが。

「乗ったことないのか? 一度も?」
「……ええ」

いつも強気なセリスが、どこかしおらしく頭を垂れた。
問い詰めるような言い方をしたつもりはないが、痛いところを突かれてしゅんとしてしまったセリスに、マッシュは慌ててフォローする。

「別に恥じるようなこっちゃねえよ。なんつーか……ほら、お国柄ってヤツだろ。うちの国の人たちはさ、経験上乗らざるを得ないわけで」

乗る機会がなかったのは、セリスのせいではない。軍属だった頃にチョコボを駆る騎羽隊にでも所属していたのなら話は別だが、どちらかというと乗るのは魔導アーマーだった。
ここまで彼女はチョコボと無縁の生活を送ってきたのだ。

「それなら、練習して乗れるようになろうぜ。移動手段ってのもあるけど、楽しいよ。チョコボに乗るの」

たとえば、かつて戦いを共にした仲間たちに会うため遠出するなら、自分の足で向かうのではなくチョコボに乗るほうがはるかに楽だ。それに、生き物との触れ合いは心を和ませてくれる癒しの効果もある。
そうね、役立つわよね、と気を取り直して頷くセリスを見つめて、マッシュは口元を緩めた。

「嬉しいなあ」
「え、何が?」
「こうやって、セリスがフィガロに染まって馴染んでってくれんのがさ。なんか、俺の家族って感じがする」

マッシュは言葉どおり本当に嬉しそうで、セリスまで頬をほの赤く染めてにやけてしまう。
現在のセリスの立場として、フィガロ王国の王太子妃という肩書きがある。そう聞くと堅苦しくて身構えてしまうのだが、マッシュのお嫁さん、と言い換えると途端に甘美な響きを持つから不思議なものだ。

「よっしゃ、じゃあ外で待ってろ! 厩舎から一羽、城門の前まで連れていくから!」
「え、えっ? 今?」
「あ、乗りやすい格好! 運動しやすい格好に着替えて、シャツか何かと汚れてもいいズボンな、それに着替えててくれ」

本当に本当に、相当嬉しかったのだろう。にやけ顔から一転して目をしばたかせるセリスをよそに、マッシュは意気揚々と夫婦の私室を飛び出していった。
午後の予定は自主的に剣の訓練をしようと思っていただけなので、べつに何かに差し支えるわけではないのだが、だからと言って急すぎやしないか。選択権を与えられなかったセリスは、そのまましばらく呆気に取られていた。
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