FINAL FANTASY 6

□カッパー・パニック!
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ガウのトレーニングに付き合って獣ヶ原に向かったメンバーが、表情を凍りつかせて飛空艇に帰ってきた。

「元に戻らない?」
「もう、どうしたらいいのか……」

動揺のあまりにティナは半泣きで、ガウは落ち着きなくうろうろと徘徊し、カイエンは顔面蒼白、カッパは呆然と立ち尽くすのみ。
……カッパ。どこからどう見てもカッパだ。

「本当に、これが私の弟だって言うのかい?」
「信じられねえのはわかるけど、さ。一番信じられねえの、俺だぜ」

訝しげなエドガーに対し、上から下まで全身緑色のカッパはそう、マッシュの声でげんなりと呟いた。
ティナが言うには、マッシュは獣ヶ原で出会ったモンスターのココにカッパーをかけられたのだという。ひとまずそのまま戦勝し、落ち着いたところで彼女がマッシュを元に戻そうとしたところ、何度魔法を唱えても何も変わらない。ティナの頭は真っ白で、魔導に疎いガウやカイエンにはなすすべもなく、途方に暮れて飛空艇に帰ってきたのだった。

「見た感じは普通のカッパと全然変わらないけど、なあ? なんか違うか?」
「ふむ……強いて言えば肌の色みが若干黄色みを帯びておる気もするが、おそらく単なる個体差の範疇じゃろうしのう」
「ココが使ったカッパーの魔法自体も、特別面妖な気配は見受けられなかったでござる」

まじまじと緑の全身を眺めるロックとストラゴスに、カイエンが証言した。その横で、ティナをなだめるように肩を抱いたセリスが口を開く。

「マッシュ、あなた本人は? 何か、違和感とかない?」
「いや、なんも。いつものカッパーと同じで、あんまり力が入らねえくらいかな」

非力な握り拳を作り、マッシュは肩を落とす。いつもなら筋肉隆々の腕は血色が悪く、しなびて細い。たやすく折れてしまいそうだ。
腕だけではない。両手両足の細い指の間には薄く水掻きが張っていて人間のそれとはかなり違うし、身長もガウといい勝負になってしまっている。先ほどのエドガーがそうだったように、マッシュを知る者に黙ってこの姿を見せれば、誰も彼だと気がつかないだろう。
ラウンジに集まった全メンバーの視線は、そんなマッシュに余すことなく注がれる。とりわけ元気がいいのは、リルムの好奇心とセッツァーの爆笑だ。

「ま、元気出せや。なかなか似合ってるぜ?」
「うるせえな、嬉しかねえよ」
「いいじゃん、このままで! 筋肉男なんかよりもカッパ男のほうが、全然ちょーかわいいし」
「よかねえよ、かわいくなくて結構だ」

遠慮のない軽口に、歳の離れた子供を思いきり睨みつける。大人げない、と思う精神的な余裕は今のマッシュにはない。睨みつけたところでどうせ、くりくりとしたカッパの目では迫力もないことは承知の上だが。視線の先には無神経な孫をたしなめる小柄な老人がおり、自分の目つきより彼の小言のほうがよほど効果がありそうだった。

「しかし、どうしたものかな」
「とりあえず、私たちもカッパーをかけてみましょう。術者との相性があるのかもしれないし」

魔法に長けたセリスとストラゴスが代わる代わるカッパーを唱えてみたが、光の向こうに人間の姿が現れることはなかった。試しにエドガーにかけてみれば、双子の兄はきちんと交互にカッパと人間とに化けたから、使い手の魔力に問題があるわけではなさそうだ。
駄目で元々と思いつつもエスナやデスペル、果てはポイゾナまでも試してみたが、やはり効果は得られない。
魔法が無駄なら道具に望みを託す。

「…………」
「…………」
「……もう食えねえって……」
「限界?」

テーブルに突っ伏すマッシュは相変わらず緑一色だ。
飛空艇に備えてあったイエローチェリー九十九個をほぼ食べ尽くしたところで、効果がまったく見られないので諦めた。

「ううむ、何をしても効かんゾイ」
「チッ、打つ手がねえな」

魔法も効かない、イエローチェリーも反応なし。とすれば、やはり問題はマッシュ当人にあるのだろうか。あるいは、敵のカッパーが何か特殊なものであったか。

「呪いの類いクポ?」
「でも、カッパーに何も変な感じはなかったんだろ?」
「なかった! ガウ、見たことあるやつ、ふつうのやつ」
「術者が死なないと解けないとか、時間経過を待つしかないとか……例えば、死の宣告みたいな呪いって可能性は?」
「いや、モンスターは相違なく確実に仕留めてきたでござる」
「死してもなお解けない呪いとなると、相当ヤベェんじゃねえの」
「呪いを解く方法、か」

疑問と否定が次々に飛び交った。事態の重さに、さすがにセッツァーも笑うのをやめて煙草を灰皿に押しつける。
なのに、今度はエドガーが突拍子のないことを言い出した。
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