FINAL FANTASY 6
□対照的な
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フィガロ王国では明日、軍の新兵の入隊式があるらしい。式典には王族は正装で臨むという習慣があり、行事に慣れた現役国王のエドガーと対照的に、衣装合わせを終えただけでマッシュはいろいろと疲れた様子だった。早く着替えたい、と愚痴をこぼしてばあやにたしなめられる後ろ姿が、彼には悪いが可笑しかった。
「ね、マッシュの正装、いいね」
なんか新鮮だったわ、とティナが楽しそうに言った。
ティナとセリスはそれぞれ、王とその双子の王子のフィアンセとして丁重にもてなされていた。まだ正式な婚姻関係になく入隊式への出席はしないものの、式典の準備に忙しいフィガロ城内への入城を許可され、予行演習が終わるまでの待機場としてこの広い客室に通されたのもそれゆえのことだろう。貴族でも温室育ちでもない二人にとってはむずがゆい対応だったが、エドガーたちの立場もある。この先、悪い意味で贅沢を覚えるということではなく、良い意味で慣れていかなければならない世界なのだろうとセリスは思った。この待遇しかり、あの正装姿しかり。
「エドガーのほうがカッコよかったんじゃない? やっぱり風格あるっていうか、何より似合うもの」
「うん。エドガー、とってもカッコよかった」
素直に認めて相好を崩すティナに、セリスも微笑んだ。彼女が言うと嫌味や自慢たらしくはなく、むしろ微笑ましいのだ。
これがもし自分であったら、どうだろう。セリスはふと思った。仮に、先ほどの自分の問いかけを逆にティナが発したとして、その返事は。
――そう、マッシュったらすごくカッコよかったの! うふふ!
(…………無理無理無理無理)
でれでれして甘ったるく笑う己の姿を一瞬思い浮かべただけで、顔から火が出そうになった。
落ち着け、と自らの胸に言い聞かせて平静を取り戻す。落ち着けセリス、人間にはキャラクターというものがあり、それには似合うものと似合わないものがあるわけで。あんなきゃるるんとした可愛らしいキャラクターが似合うとか、そんな、そんなわけ。
「でも、マッシュだってすごくカッコよくて素敵だったわよね」
「そんなワケないしッ!」
しん、と静まり返る空間。
ソファの前の方にちょこんと座って紅茶のカップを手に取ったまま固まるティナのまばたきを見て、セリスは我に返った。
「……え?」
「あ……いや、ティナ、あのね」
思考と返答がこんがらがって、随分と強めの否定を吐いてしまった。しかも、なんだか思っていることと違う意味になった。ティナの目が点になるのも無理はない、言った自分も驚いたのだから。どうやって自分自身をフォローしようかと言葉を探す。
が、ティナはぱん、と手を叩いて。
「あ、わかった! セリスは普段のマッシュのほうが好きなのね」
「へ?」
「いつものほうが彼らしいし、マッシュ自身も疲れなくて済むし。そうでしょ?」
やはり嫌味ではなく、からかっているふうでもなく、彼女の言葉には優しさがある。
「そ、そう。そういうことよ」
(……乗っかっちゃえ)
人の好い少女がこちらの思惑に気づくことはまず有り得ないと踏んで、その優しさに思いきり甘えさせてもらうことにした。
えへへ、やっぱり、となぜだか嬉しそうに笑うティナに合わせて、セリスもとりあえず笑っておく。いい仲間を持ったなあ、といろいろな意味で感慨深く思った。
(了)