FINAL FANTASY 6

□Way of life
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氷漬けの幻獣との対面を果たしたティナは、鮮烈な光を放ちながら空の彼方へ飛び去った。
すぐにでも追いたいところだが、吹雪の勢いは激しさを増し、すでに夜も更けている。今晩はこの町で一夜を過ごし、翌朝早くにフィガロ城へ向けて発つ予定を立てた。



炭坑都市ナルシェを訪れたのは初めてだが、冷気属性の魔導に長けたセリスにとって、寒冷な空気は予想したほどの脅威ではなかった。
それよりも、この景色が退屈だ。宿のフロントの一角に設けられた待合所で、ひとり窓辺に座り外を眺める。空から町を覆う雪と立ち込めるスチームで、ガラス越しの見晴らしは極めて不良だ。
湯冷めの感覚はまだないが、浴後、どれほど経っただろうか。早く寝て明日に備えねばならないというのに、ベッドに潜り込んでじっとしていられる気分にはなれない。自分の立場と環境とが数日の間に激変したせいか、思った以上に神経が昂っているらしかった。

「あれ? あんた、こんなとこで何してんだ」

そう、だからだろう。いつもなら他人の気配には敏感なのに。
セリスは慌てて振り返った。体格のいい男がこちらに視線を寄越している。先程はたしか後頭部でひとつに結ばれていた金の髪は、うっすらと濡れていくつかの毛束を作り、大人しく重力に従っている。浴場からの帰りだろうか。

「貴殿は……フィガロの王太子殿であられたな」
「え、ああ。よく覚えてるな。こんだけ一気に仲間の顔覚えんの、大変だろ」

何しろ、ティナを除いて今日出会った人間の全員が初対面だ。きちんと自己紹介を受ける時間もなかったが、セリスはマッシュの顔を見るなり確信を持って言った。立ち上がり、頭を下げる。

「お顔立ちが兄君によく似ておられる。
……先刻は我々を擁護いただき、助かった」
「ようご?」
「ドマの剣士が激昂したときに」

それでか、とマッシュは納得した。
彼の顔を覚えやすいのは、パーティ唯一の双子であることも理由のひとつだったが、それ以上に、兄に免じてセリスとティナへの怒りを収めるようカイエンを説得してくれた目の前の光景が記憶に残っている。
長年、力勝負の実力社会で男と渡り合ってきた。帝国軍の全員が悪意に満ちた人間というわけではなかったけれども、女というだけで幾度となく蔑視や差別の対象にもされた。仕方がないことだと己に言い聞かせ、そういった扱いに耐えることが日常化していたセリスにとって、ロックが堂々と宣言した「守る」という言葉も、マッシュにかばってもらったことも、新鮮でありきまりが悪くもあり、そしてどこか嬉しかった。

「今日は疲れたろ。とっくに寝たかと思ってたけど、まだ起きてたんだな」
「なに、風呂を頂いて少し休憩していたところだ。貴殿も湯浴みに行かれたところか」
「ああ、まあ。あー……なんかこの感じ、すっげえ久しぶり」

照れ臭いのか、気まずいのか、マッシュは太い指で頬を掻く。指示語が何を指しているのかわからず、セリスはわずかに首を傾げた。

「この感じ、とは」
「いや、敬語ってのか? なんかそういう難しい感じで話しかけられんのがさ。
あのさ、全然そんなんじゃなくていいから。もっとフランクっていうか、まあ普通でいいから。俺もほら、こんなもんだし」

自らを指し示し、鷹揚に笑う。
セリスは返事に困った。こんなもんと言われてもどんなもんだ、と喉まで出かかった言葉は飲み込んで、もっと穏やかな反応を探す。
ガストラ帝国軍は上下関係に厳しく、とりわけ最近の軍内の規律においてフランクという言葉とは無縁であった。態度や言葉遣いに口煩くないのは、せいぜいレオ将軍くらいのものだっただろうか。そういう上司にほど、部下たちは自ずと礼儀正しく接するようになるのだが。
そんな環境にいたからこそ、余計に戸惑うのだ。まして、相手は一国の王子。普通でいいと言われても、言葉を選ぶことこそが普通である。

「しかし、王太子殿下に対して」
「いや、俺はもう王族じゃない。王位継承権だってない、ただのモンク僧さ」

ひらひらと手を振り、マッシュは肩をすくめた。

「俺のわがままでね、十年前に城を出たんだ。国を捨てたわけじゃないけど、今さらへらへらと王族面なんてできないし、俺自身もしたくない。
だから、そういう堅っ苦しいの、やめようぜ。俺には普通でいいから。ま、兄貴にだって普通でいいんだろうけど」

国王と話すロックは、セリスに相対するのとは少し違う、より砕けた態度を見せていた。気さくに冗談をぶつけるし、エドガー自身もそれを諌めるでも不快に思うでもなく、ごくごく当然のように受け入れている。
そういう教えを受けた兄弟なのか、あるいは国柄なのだろうか。
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