Hydrangea game

□Hydrangea game Stage,2
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応接テーブルに着いて紙を引き寄せ、ペンを握った。二年棟のオブジェクトBより先は私しか分からない。渡り廊下の方はあっくんに書き足してもらうことにする。ちらりと岡村くんと福井くんの方を伺えば、ゲームルールは纏めてくれているようだ。

「耳良いんですね」
「あー、うん。サバゲーの時、後ろから近付かれるの怖いから耳澄ますでしょ。鍛えられたのかな」

赤司くんから話し掛けられた。紙から顔は上げずに答える。
耳が良い自覚はある。普通の人に聞こえない周波数の音が聞こえるとかはないが、小さな音を拾うのは得意である。でも、普通より良い、くらいである。

「そういえば、屋上いる時も今吉先輩が来たり他の人が来たりとかした時もいち早く気付いてましたね。人まで当てたりしましたし」
「ショウちゃんとか仲良い子の足音は何となく分かるよ。特徴があれば、だけど」

歩幅と歩調で大体の身長は分かる。体重で足音の差もあるし、足を引き摺る人だっている。ある程度分かれば後はそこに来る可能性が高い人から考えていけばいい。計算した末で当てているだけだ。
勿論、特徴が似ている人とかいるから100%は当たらないけど。あの屋上で当てるのは割と簡単だ。ショウちゃんかマコちゃんくらいしか来ないし。マコちゃんは優等生ぶってたから背筋を伸ばしてキビキビ歩く、ショウちゃんは割とのんびりマイペース。二人共当時からして背は高めだったから分かりやすい。

「なるほど。紫原の足音はすぐ分かりそうですね」
「うん、割と引き摺ってるし。のっそのっそ歩いてるイメージかな」

緊張する場面だと変わるが、癖は無くならない。散々周りに注意を払って進んだからあっくんの足音はたくさん聞いた。あっくんは大股で偶に靴底を擦る癖がある。そこは分かっていた。ただ、体重が近いのか岡村くんとは足音の重さが近い。混同しやすいのだ。

「なかなか面白いですね。俺はどうです?当てられそうですか?」
「んー。近ければいけそう。でも遠かったら難しい。足音小さいよね」
「そうですか」

凄く理想的な歩き方なんだと思う。姿勢も凄く綺麗だし、無理もない。やっぱり綺麗な歩き方の方が音は出ない。私は大分訓練した。赤司くんは育ちが良さそうだし、そういうところ厳しかったのかな。
そう思いつつ、出来た地図をポテチを食べているあっくんへと渡した。いつの間にポテチを用意したのだろう。受け取ったあっくんは眺めた後にさらさらと書き込みを始めた。

私は凝った肩を緩めるように伸びをしておく。いつものサバゲーより数段緊張する場面で重い銃を抱えて動くからどうしても肩が張るな、と思っていたら、後ろからよく知る足音が聞こえた。わざわざ真後ろにいるように思う。

「肩凝ったんやったらマッサージしたろか?」
「結構です。ショウちゃんわざと痛くするから嫌」

驚かすかのように肩に手が乗った。いるしやると分かっていたから驚かずに振り返れば、案の定ショウちゃんがいた。つまらなさげな表情をしている。

「偶には引っ掛かってくれてもええやん」
「嫌だよ、面倒臭い」

早く座ろうか、と促して追い払った。参謀組が揃ったから、報告を始めることにする。先どうぞ、と福井くんへ面倒臭いことは押し付けた。

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