Hydrangea game

□Hydrangea game Stage,2
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彼方の方で手榴弾が爆発した。と言っても女子の投擲力では十数メートルの距離だ。無風のそこに一転して生暖かい風が吹いた。

大群の一体しかはっきりとは見えなかったが、そのゾンビが着ていたのは防弾ジャケットと思わしき物だった。逃げる直前に目の端に映ったのはフルフェイスメット。実銃なら多少のダメージは与えられるであろうが、改造してあるとはいえおもちゃではダメージは期待できない。
対処法を知らずに突っ込むのは分が悪い。手足のみを狙うという撃ち方もあるが、ダメージ蓄積量は小さくなる上、的が小さい。スナイパー使いにも不利だ。手足などに一撃ではボルトアクション、単発の高威力ガンでも倒せないことは実験済みだ。敵の様相が変わったことで体力面にも影響があるかもしれない。
これは、早いところ情報を持ち帰らなければ。そう思ったところにどこからか覚えのある雑音が入った。

『イベント。二年棟一階の特殊ゾンビによるセーフエリアの侵入を可能にする』

その放送が入ると同時にゾンビが一斉に歩き始めたような音が響いた。こんなに倒し辛い敵を、あんなに人が多いところに引き込む訳にはいかない。二年棟内で仕留めたいところだ。
だからといって2人でこの数を仕留められない。キヨ達は多分一度戻ったろうから待っていれば援護は来るが、その前にこちらがジリ貧になる。急いで情報を伝えるにしてもこの大群を率いてしまうようなことになるであろう。

ならば、取る手段はひとつだけ。危険だが、より大勢が助かる為にはこれしか方法がない。
私はメモを取り出して、今まで得た情報を一気に書き出した。

「カズくん、一年棟側の入口の場所は分かるね?走っていってこれを届けて」

書いている途中にカズくんにお願いをする。大勢が動いているから足音が大きい。声を抑えれば何とかバレないでいられるだろう。バレるリスクより、今は早く伝えるを取るべきだ。
カズくんは周囲を気にしつつもこちらに顔を寄せてくれた。

「場所は分かるけど、走ってったらゾンビも連れて行くことになるよね?」
「私が残って引き付ける。これだけの広さと隠れる場所があれば何とか出来る」
「無理だろ。あんだけいるんだぜ?」

私の目にも数体映っているから、カズくんはかなりの数を見えているのだろう。言う通り、多分私には倒して、隠れてを続けられる余裕はない。だが、どちらかを中途半端にしさえすればどちらかを成立させることくらい出来る。

「でも、ここに残ったって共倒れ。一緒に逃げるにしても私の体力じゃカズくんの足を引っ張る。そしたら蜂の巣になるよ。それに、情報もない援護じゃ期待は薄い。私達がゾンビを引き連れてしまう可能性もある。あのゾンビ達が向かっているのも一年棟側だからここでの足止めも必要。情報を早く届けることを両立したいとなれば、それしかない。正直私一人でどれだけの足止めになるかは分からないけど、情報をいち早く届けるならカズくんの方が上。二人ともが生きる為に、これを届けて」

早口でそれを伝えればカズくんは渋々頷いてくれた。決して私を犠牲にしている訳でもないのだ。これが多くにとって最善。私は書き終えたメモをカズくんに渡して微笑んだ。

「頼んだよ。出来るだけ急いでね」
「任せて!絶対死ぬなよ、みのりサン!」

小声ではあるが励まし合ってから、お互いに背を向けて行動を開始した。

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