Phlox

□Phlox
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その日の夜今吉とまどかはメッセージを交わし、詳しい場所や時間を取り決めた。そして翌日の午前中から今吉は寮を出た。途中で諏佐と出くわしたが、「別嬪さんところ行ってくるわ」と言っておいた。「花宮か?」という問いに「せや」とすぐ返せたのはファインプレーだ。
実際、そう言って花宮のところへ行ったことがあるから不自然ではない。今回の行き先も花宮で間違いでは無いし。

まどかの住まいは歩いて30分掛からないくらい、といったところだ。バスもあるとまどかには言われているが、健康な元運動部の男子だから30分くらい苦でもない。途中にあるケーキ屋さんで良さげな物を見繕って手土産にする。
そこから少し歩くとまどかの住むマンションが見えた。道順が適切過ぎて迷う事も無かった。あの頭脳はこういうところにも作用するらしい。末恐ろしい人だ、と今吉は考えながらマンションの一階にあるオートロックに部屋番号を入力して呼び出す。というか、良いところに住んでいるな。

『はい』
「来たでー」
『はいはい。お疲れ様。ちょっと待ってね…』

通信が入って少しやり取りするとすぐに扉が開く。最初の返事は白い方だったな。そう思いながら中へと足を踏み入れ、そのまま奥のエレベーターに乗る。点灯させたのは最上階だ。見た所角部屋。本当に良いところである。別に誰かと住んでるとか言ってなかったよな、と首を傾げつつエレベーターから降りる。奥の方へと進み、チャイムを押した。すぐにドアが開かれる。

「いらっしゃい」
「お邪魔するでー。コレお土産や」
「あら、ありがとう。ここの美味しいのよね」

今吉がケーキの箱を渡したらまどかは素直に喜んでくれた。まどかはスキニーパンツに大きめなニットというカジュアルな格好で、この前とは印象がまた違う。どちらにせよ美人な事には変わりないが。
今吉は出してもらったスリッパを履いてまどかの後に続く。そのままリビングへと通された。

「コート掛けるならハンガーはそこ。コーヒーでいい?」
「おーきに。何でもええよ」

ハンガーにコートとマフラーを掛けさせてもらい、ソファーに座る。結構片付いていて綺麗なリビングだ。というか、異様に物が少ないような気がする。大きさに物の量が見合ってないというか。
今吉が部屋を見渡していたらまどかはその顔を覗き込んだ。ひとつクスリと笑ってからテーブルにコーヒーを置く。

「お待たせ。何か面白い物でもあった?」
「無作法やったわ。すんまへん」
「別に構わないわ。何にも置いてないし」

そう、生活感がないのだ。一番人が住んでいると感じる物がローテーブルの上のノートパソコンだ。先程使っていたのだろう。起動したままである。
まどかはそのパソコンの前に座った。

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